AutoCAD MEPを長らく使ってきた事務所から、「Revit MEPに移行したいが何から始めればいいか」という相談をよく受けます。両者は同じAutodesk製品でありながら、設計に対する考え方が根本的に違います。この違いを軽く見て「同じMEPだから、操作を覚えれば移れる」と考えると、移行は高い確率でつまずきます。本記事では、まず両者の思想の違いを押さえたうえで、移行を検討すべきタイミング、段階的な移行ステップ、よくある失敗、併用期間の考え方、データ資産の扱い、そしてコスト計画までを実務目線で整理します。
AutoCAD MEPとRevit MEPの根本的な違い
AutoCAD MEPは「2D作図に3D要素を足したソフト」で、作図の延長線上で3Dを検討します。図面(レイアウト)が成果物の中心にあり、3Dはあくまで補助です。一方Revit MEPは「3Dモデルから2D図面を生成するソフト」で、モデリングが主役です。平面・断面・系統図といった図面は、モデルから切り出した「ビュー」として後から生成されます。
この違いは、単なる操作の差ではなく「どこに正(マスター)の情報を置くか」という発想の差です。AutoCAD MEPでは図面が正であり、変更は各図面に反映していきます。Revitではモデルが唯一の正であり、一箇所直せば関連するすべてのビューに自動で反映されます。さらにRevitの設備要素は、ダクトや配管が径・系統・接続といった属性を持つ「情報を備えた部材」であり、単なる線や図形ではありません。この前提を理解せずにAutoCAD MEPの使い勝手をそのまま持ち込もうとすると、必ずつまずきます。
移行を検討するタイミング
移行を検討する典型的なタイミングは、発注側や元請けから「Revitモデルで提供してほしい」と求められ始めたとき、もしくは意匠・構造がRevitで進めるプロジェクトが増えてきたときです。意匠・構造がRevitで進めているのに設備だけAutoCAD MEPという状態は、座標合わせ・干渉チェック・変更追従のたびに変換と手戻りが発生し、連携の手間とストレスが大きくなります。
逆に、案件のほとんどが既存改修の小規模物件で、関係者もAutoCADベースで完結しているなら、移行を急ぐ必要はありません。大切なのは「周りがRevitに動いているか」「Revit提出を求められる頻度が増えているか」という外部環境を見極めることです。移行は技術の問題であると同時に、受注機会を逃さないための経営判断でもあります。
移行のステップ
移行は一気にやらず、段階を踏んで進めるのが現実的です。全社一斉切り替えは負荷が集中しすぎて、かえって失敗のもとになります。次の四段階を意識すると進めやすくなります。
ステップ1:環境整備と基礎トレーニング
まずRevitのライセンスを最低限の本数だけ購入し、推進役となる数名でモデリングとテンプレート作りの社内トレーニングを始めます。いきなり全員に配るのではなく、社内に「分かる人」を先に育てるのが定石です。この段階で、社内標準のテンプレート(系統色、シート構成、注釈スタイル、ビューテンプレートなど)の骨格を作っておきます。
ステップ2:小規模案件でのパイロット運用
比較的規模の小さい案件1〜2件をRevitで実際に走らせます。納期に余裕のある案件を選び、「うまくいかなくても致命傷にならない」場で課題を洗い出すのが目的です。ここで出てくる「ファミリが足りない」「集計表の出し方が分からない」「図面の見た目が社内標準と違う」といった問題を、次の段階につなげるための材料として記録しておきます。
ステップ3:課題をつぶしながら適用拡大
パイロットで洗い出した課題をテンプレートやファミリ、運用ルールに反映しながら、適用する案件の規模と本数を少しずつ広げていきます。この段階では、推進役が他のメンバーをサポートする体制を作り、ノウハウが個人に閉じないように社内マニュアルやファミリ命名規則を整えていきます。
ステップ4:標準化と定着
新規案件は原則Revitで進めるルールへ移し、テンプレート・ファミリ・チェック手順を社内標準として固めます。ここまで来れば、Revitは「特別なソフト」ではなく日常の道具になります。残ったAutoCAD案件は保守・改修として扱い、自然に縮小させていきます。
よくある失敗:AutoCAD MEPの使い方を持ち込む
最も多い失敗が、「AutoCAD MEPと同じ使い方をRevitでもやろうとする」パターンです。たとえばAutoCAD MEPでは「画面上で線を描いてからサイズを決める」順番で作図しますが、Revitでは「先にシステムとサイズを決めてからルーティングする」のが基本です。この順番の違いを社内トレーニングで頭から切り替えておかないと、Revitの自動集計や干渉チェックといった強みが活きず、かえって遅くなります。
ほかにも、モデルの精度(LOD)を最初から作り込みすぎて手が止まる、図面の見た目をAutoCAD時代に完全に合わせようとして注釈の調整に膨大な時間をかける、線分感覚で要素を置いてシステムとして接続させない、といった失敗が典型です。いずれも「図面づくり」の発想から「情報を持ったモデルづくり」の発想へ切り替えられていないことが原因です。最初は多少図面の体裁が違っても、まずモデルを正しく作ることを優先したほうが、結果的に早く定着します。
併用期間を認める
現実的には、2〜3年のAutoCAD MEPとRevitの併用期間を見込んでおくのが賢明です。進行中・保守対応中の古いプロジェクト(AutoCAD)と、新規のRevitプロジェクトはどうしても並行します。併用期間をゼロにしようとすると、走っている案件を止められないまま全員が新ツールに追われ、チームに負荷がかかりすぎます。
「しばらくは両方走る」と割り切ることが、かえって移行をスムーズにします。ただし併用が惰性で続くと移行が永遠に終わらないため、「新規案件は原則Revit」「既存改修はAutoCAD継続可」といった切り分けの基準を決め、いつまでに何をRevitへ寄せるかの目安を社内で共有しておくとよいでしょう。
データ資産の取り扱い
AutoCAD MEPで蓄積してきたシンボルライブラリやタイトルブロック、ブロック類は、Revitにそのまま取り込めません。「これまでの資産をどうするか」は移行で必ずテーマに上がります。現実的には、主要なシンボルや部材をRevitのファミリとして作り直す作業が必要になります。
ここでのコツは、すべてを移し替えようとしないことです。実際に使うものは一部に偏るため、使用頻度の高いものから優先してファミリ化し、めったに使わないものは案件で必要になった時点で作る、という割り切りが有効です。また、メーカーが公式に配布しているRevitファミリや、共通のファミリライブラリを活用すれば、自前で作る量を大きく減らせます。過去のCAD図面そのものは、当面はAutoCADで参照・流用しつつ、必要なものから順次Revitへ載せ替えていく考え方が現実的です。
コスト計画
移行コストは、単一の費目ではなく複数のコストが重なって発生します。主に次のような項目を見込んでおく必要があります。
- Revitライセンス費(サブスクリプション)
- トレーニングコスト(外部研修・自習・教える側の工数)
- テンプレート整備コスト
- ファミリ整備コスト
- 習熟途上で生産性が一時的に下がるコスト(見えにくいが最も大きいことが多い)
中規模の設備設計事務所であれば、三年で500万〜1000万円規模の投資と見るのが一つの目安です。とりわけ見落とされがちなのが、習熟途上の生産性低下です。これは直接の出費としては見えませんが、慣れたAutoCADなら数時間で終わる作業がRevitでは丸一日かかる、という形で確実に効いてきます。重要なのは、このコストを「一時の出費」ではなく、今後の受注を見据えた設備投資として位置づけること、そして生産性が下がる時期をあらかじめ織り込んで案件計画を立てることです。
まとめ:段階的に、併用を認めて
AutoCAD MEPからRevit MEPへの移行は、負荷の大きい作業ですが、業界の流れを見れば避けて通りにくいテーマでもあります。鍵になるのは、両者の思想の違いを理解すること、一気にやらず段階を踏むこと、2〜3年の併用期間を認めること、データ資産は頻度の高いものから作り直すこと、そして生産性の一時低下まで織り込んでコストを計画することです。一気に切り替えようとせず、無理のない歩幅で進めれば、現場が回らなくなるリスクを抑えながら着実に移行を進められます。
監修者
長谷川一夫
機械設備設計部
パラダイム部長



