はじめに|BIMソフト選定でつまずく根本原因
「設備BIM、どれを入れればいいのか分からない」——設備設計事務所からよく耳にする悩みです。製品比較表を見れば見るほど、どれも魅力的に見えて選べなくなる——これは「ソフトの機能で選ぶ」というアプローチ自体に原因があります。
BIMソフトは「一番優れた製品」を選ぶものではなく、「自社の事業モデルと取引先のエコシステムにフィットする製品」を選ぶものです。本記事では主要な5製品をグルーピングして整理し、規模×取引先のマトリクスと、選定で陥りやすい落とし穴を中小設備設計事務所目線で解説します。
比較の前に:設備BIMソフトを三つのグループで捉える
設備BIMソフトをフラットに並べて比較しても、生まれや設計思想が全く違う製品同士を同じ軸で見ることになり、本質を見誤ります。まず三つのグループに分けて捉えると見通しが良くなります。
設備専門系:Rebro・Tfas
日本の設備設計・施工の慣行を出発点に設計された製品。作図表現の親和性が高く、凡例・記号類も出荷状態で実務に使える水準にあります。中小設備設計事務所が主なユーザー層です。
汎用BIM系:Revit MEP・ARCHICAD MEP Modeler・DDS-CAD MEP
意匠と同じプラットフォーム上で設備BIMを描く設計。グローバル製品のため、意匠連携・三次元干渉チェックに強みを持つ一方、日本の作図表現に合わせるためにはテンプレート・ファミリ整備が必要になります。
過渡期型:TfasのBIM拡張
Tfasは本来設備CADとしてスタートし、近年BIM機能を拡充している製品です。「今のCAD資産を活かしつつ、必要に応じてBIMに踏み出せる」選択肢として、設備専門系と汎用BIM系の間に位置します。
Rebro|設備設計に最適化された国産BIMの定番
強み
日本の設備作図表現への親和性が最も高く、スリーブ図・概算負荷計算・施工BIMまでを一貫してカバーします。設備サブコンとのやり取りも取りやすく、設計事務所・設備サブコンの両方で採用が進んでいるためデータ連携もスムーズです。
弱み
意匠Revitとの連携はIFC経由が中心になり、ネイティブ連携ではありません。グローバル案件・海外案件では他プレイヤーとのデータ交換で手間が出るケースがあります。
向くケース
国内案件中心、取引先の中心が設備サブコンや中堅ゼネコン、作図品質と設備特有の表現を重視したい事務所に適します。
Revit MEP|グローバル標準とゼネコン連携の要
強み
意匠Revitとのネイティブ連携でクラッシュチェックや三次元干渉確認がスムーズ。グローバルでのデファクトスタンダードのため、ゼネコン・大手設計事務所での採用が多く、海外案件でのデファクトです。
弱み
日本の設備作図表現に対応させるにはテンプレートとファミリの整備が必要で、初年度は投資フェーズになります。負荷計算も国内規格への厳密な準拠は外部ツール連携が前提になります。
向くケース
ゼネコン主導のBIM案件、意匠Revit連携が多い案件、海外案件、BIMマネジメント業務を狙う事務所に適します。
CADWe'll Tfas|CAD資産を活かせるステップアップ
強み
長年の設備CADとしての実績から、作図効率と出図品質は安定しています。すでにTfasを使っている事務所にとっては、既存資産を捨てずにBIM化へのステップアップを図れる点が最大の利点です。
弱み
BIMツールとしては発展途上の面があり、意匠BIMとの連携やグローバル案件でのIFC連携ではRebroやRevitに一歩譲る面があります。「BIMに進むために選ぶ」というよりは「ステップアップ中の選択肢」と考えるのが実態に近いです。
向くケース
すでにTfasを使っている事務所、CAD設計が主でBIM案件は一部に限られる事務所、次世代への人材交代を考えながら段階的に移行したい事務所に向きます。
ARCHICAD MEP Modeler|意匠ARCHICAD連携ケースの選択肢
強み
ARCHICAD本体に設備BIM機能を追加する拡張モジュールで、意匠ARCHICADと同一ファイル上で設備モデルを扱えるため連携がスムーズです。意匠事務所がARCHICAD主体のプロジェクトでは採用価値があります。
弱み
日本でのARCHICADシェアは意匠でも限定的で、設備側のMEP Modelerの人材プールはさらに狭くなります。設備専門製品に比べると作図表現の出荷状態も限定的で、他製品以上にテンプレート整備のやり込みが必要になります。
向くケース
主要取引先の意匠事務所がARCHICADを使っている、もしくは集合住宅・リノベーション等ARCHICADが強い領域の案件が多い事務所に限られます。
DDS-CAD MEP|欧州発グローバル製品の位置づけ
強み
ノルウェー発の設備BIMソフトで、欧州を中心に使われています。IFC連携と計算ツール連携に定評があり、電気設備設計への対応も厚い点が特徴です。
弱み
日本でのシェア・サポート体制・人材プールはいずれも限定的で、日本仕様の作図表現とのギャップも大きめです。「選べる選択肢」としては挙がるものの、実際に選ぶケースは限られます。
向くケース
欧州資本・欧州主導のBIMチームと連携した案件がある、もしくは電気設備中心の設計で計算ツール連携を重視するといった特殊事情の事務所に限られます。
規模×取引先タイプで見る選び方マトリクス
「規模だけ」で選ぶと誤ります。同じ規模でも、ゼネコン主導案件が多い事務所と、設備サブコン間取引が主の事務所とでは正解が違うからです。規模×取引先タイプでマトリクスを描くと見えてきます。
小規模(6名以下)×設備サブコン・中堅ゼネコン
Tfasをメインに、BIM案件がRebro指定であればRebro 1ライセンスを追加する体制がコストパフォーマンスに優れます。Revit MEPはテンプレート整備負荷の面で推奨しづらい規模です。
小規模×スーパーゼネコン主導案件
ゼネコンがRevitを指定してくるケースが多く、小規模でもRevit MEPを避けて通れない局面があります。テンプレート・ファミリの外部コンテンツ購入や外部受託を活用して初期負荷を下げる設計が必要です。
中規模(6〜20名)×多様な取引先
Rebroをメインにしつつ、ゼネコン案件用にRevit MEPチームを少人数で仕込む併用型が現実的です。BIMチームとCADチームの役割分担を明確化し、ツールごとのリーダーを置く体制が効きます。
中堅以上(20名以上)×ゼネコン・大手設計事務所取引
Revit MEPをメインに、設備サブコン取引や作図量の多い案件でRebroを併用する体制がよく見られます。BIMマネジメント・コーディネーション業務を収益柱に育てると、Revit MEP中心の体制を選ぶ価値が高まります。
選定で陥りやすい3つの落とし穴
落とし穴1:「ライセンス代」だけでコストを見る
BIMソフトの実コストは、ライセンス代よりはるかに「テンプレート・ファミリ整備」「教育・習熟期間の生産性低下」「運用ルール策定」にかかります。初年度は人件費を含めてライセンス代の数倍規模の投資と考えて予算を組む必要があります。
落とし穴2:「人材採用」の視点を入れ忘れる
選んだBIMソフトは、将来の採用の難易度に直結します。Rebro・Tfas経験者は設備業界に多く、Revit MEP経験者はゼネコン・大手事務所出身者に偏ります。中途採用、スポット受注、学生からの育成のどれを主軸にするかで選択肢が変わります。
落とし穴3:「今の取引先」だけを見て選ぶ
BIMソフトは5〜10年スパンで使う資産です。今の主要取引先に合わせて選ぶと、取引先構成が変わったときに乗り遅れます。「今後5年で設備BIM市場と取引先のツール使用状況はどう変わるか」を見て選定する視点が不可欠です。
5年スパンで見るべき戦略視点
BIMソフトの選定は、単なるツール選びではなく事務所の中期戦略そのものです。「今後5年で設備BIM市場と自社の事業ポートフォリオはどう変わるか」を描いた上で選ぶと、判断軸が明確になります。
ゼネコン・BIMマネジメント領域を狙うならRevit MEPを設計中心、設備サブコン・中堅ゼネコンとの長期関係を軸にするならRebroを設計中心、現状のCAD資産を活かしつつ採用負荷を抑えたいならTfasというように、戦略とツール選定がセットになります。
まとめ|「規模×取引先×人材×5年戦略」で選ぶ
設備BIMソフトの選定軸は「規模×取引先×人材×5年戦略」の四つです。主要取引先の意匠BIM使用状況、人材プール、主要案件規模、そして事務所として向かう方向を重ねたときに、選ぶべき製品と体制が見えてきます。
実際には「メイン+併用」で複数製品を使い分ける体制が主流になりつつあり、「どれか一本に絞る」という考え方より「どんなポートフォリオを組むか」という発想が必要です。
パラダイムでは、事務所の規模・取引先構成・中期戦略を踏まえたBIMソフト選定とポートフォリオ設計のコンサルティングをご提供しています。選定段階のご相談もお気軽にどうぞ。
監修者
長谷川一夫
機械設備設計部
パラダイム部長



