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省エネ基準と空調設計の実務|PAL*・BEI・一次エネ計算・ZEB対応の設計ポイント

省エネ基準と空調設計の実務を徹底解説。PAL*と空調負荷の関係、一次エネルギー計算で押さえるべき設計値(熱源COP・搬送動力VAV/VWV・全熱交換器効率・フリークーリング)、BEI改善の実務フロー、ZEB Ready・ZEBへの展望、省エネ計算の落とし穴まで、建築設備設計の実務ポイントを網羅的に紹介します。

省エネ基準と空調設計の関係|なぜ空調が最重要なのか
hvac
公開日
2026年4月12日
更新日
2026年4月13日

省エネ基準と空調設計の関係|なぜ空調が最重要なのか

建築物の一次エネルギー消費量の中で、空調設備が占める割合はオフィスビルで約40〜50%に達します。このため、省エネ基準への適合において空調設計の役割は極めて重要です。

2025年から全ての新築建築物に省エネ基準適合が義務化され、空調設計者には以下の2つの基準を同時に満たす設計が求められます。

  1. PAL*(外皮基準):建物外皮の断熱・日射性能を評価する指標。年間の単位床面積あたりの外皮負荷で評価
  2. BEI(一次エネルギー消費量基準):設計一次エネルギー消費量を基準値で割った指標。BEI≦1.0で基準適合、BEI≦0.5でZEB Ready

本記事では、PAL*と空調設計の接点、一次エネルギー計算で押さえるべき設計値、BEI改善のための実務フロー、そしてZEBへの展望までを詳しく解説します。

PAL*と空調設計の接点

PAL*(Perimeter Annual Load)は外皮性能の指標であり、主に意匠設計の領域です。しかし、PAL*が高い(外皮性能が低い)建物では空調負荷が増大し、BEIの達成が困難になるため、空調設計者にとってもPAL*は無関係ではありません。

空調設計者が意匠設計者と調整すべきポイント

PAL*の改善に向けて、空調設計者が意匠設計者と早期に調整すべき主な項目は以下のとおりです。

  • 窓の日射取得係数(ηAC値):Low-Eガラスの採用やブラインドの併用により、日射取得係数を低減できる。空調負荷の低減に直結するため、ガラス仕様の早期確定が重要
  • 外壁・屋根の断熱性能(U値):断熱性能が低いと冬季の暖房負荷が増大する。断熱仕様の変更が空調容量に与える影響を設備側からもフィードバックする
  • 窓面積比(WWR):WWRが大きいほど日射負荷・貫流負荷が増大する。意匠的なデザインと省エネ性能のバランスを協議する
  • 外付けルーバー・庇:日射制御に有効でPAL*改善に寄与するが、意匠デザインとの整合が必要

一次エネルギー計算で押さえる空調設計値

空調設備の一次エネルギー計算では、以下の設計値がBEIに大きく影響します。それぞれの項目がどの程度BEIを左右するかを理解しておくことが、効率的な省エネ設計のカギです。

熱源機器のCOP値

熱源機器のCOP(エネルギー効率)は、BEIに最も大きな影響を与える要素のひとつです。

  • チラー・ヒートポンプ:COPが高い機種を選定するほどBEIが改善する。特にインバーター制御の機種は部分負荷時のCOPが高く、BEIに有利
  • VRF(ビルマルチ)方式:機種ごとのCOP値が計算に反映される。冷暖同時運転型は排熱回収による効率向上が計算上も評価される

搬送動力(ポンプ・ファン)

搬送動力の削減は、BEI改善に大きく寄与する項目です。

  • インバーター制御(VWV・VAV):ポンプの変流量制御(VWV)やファンの変風量制御(VAV)の採用はBEI改善に大きく寄与する。特にVAVは一次エネ計算での評価が高い
  • 台数制御:ポンプ・ファンの台数制御により、部分負荷時の搬送動力を削減できる。計算上も台数制御の採用が評価される

全熱交換器の効率

全熱交換器の採用は、外気負荷の低減に直結します。計算上のポイントは以下のとおりです。

  • 全熱交換器の熱交換効率(60〜70%が一般的)がそのまま計算に反映される
  • 高効率型(80%以上)の採用でBEIがさらに改善するが、コストとのバランスを検討する
  • バイパス機能の有無も計算に影響する(中間期の外気冷房時にバイパスできる機種が有利)

その他のBEI改善に寄与する設計値

上記3項目に加えて、以下の設計値もBEI改善に寄与します。

  • フリークーリング:中間期に冷却塔の冷却水をそのまま空調に利用することで、冷凍機の運転を停止しエネルギーを削減する
  • 外気冷房(エコノマイザー):外気温度が低い時期に外気を直接導入して冷房することで、冷房エネルギーを削減する
  • 大温度差送水:送水温度差を拡大することでポンプ流量を削減し、搬送動力を低減できる
  • CO₂センサー制御(DCV):在室人数に応じて外気量を制御することで、外気処理エネルギーを削減する

BEI改善のための実務フロー

BEI改善のための実務的な進め方を、設計段階別に整理します。

基本設計段階:目標BEIの設定とトライアル計算

まず、プロジェクトの目標BEIを設定します。省エネ基準適合のみならBEI≦1.0、BELS評価で★★★★★を目指すならBEI≦0.8、ZEB ReadyならBEI≦0.5が目標となります。基本設計段階で主要機器の仕様を仮設定し、トライアル計算でBEIの見通しを確認します。

BEIが目標を超えた場合の改善手順

トライアル計算でBEIが目標を超えた場合、以下の順序で改善を検討します。

  1. 熱源COPの向上:より高効率な機種への変更、インバーター制御機種の採用
  2. 搬送動力の削減:VAV・VWV制御の導入、ポンプ・ファンのインバーター化
  3. 全熱交換器効率の向上:高効率型への変更、バイパス機能付き機種の採用
  4. フリークーリング・外気冷房の導入:中間期の冷房エネルギー削減
  5. 太陽光発電の導入:空調設備の省エネ対策だけでは目標達成が困難な場合、再生可能エネルギーによるエネルギー削減も検討する

ZEBへの展望|空調設計から見たZEB Readyへの道筋

ZEB(Net Zero Energy Building)の実現は、今後の建築設備設計の大きなテーマです。ZEBの段階別の目標BEIは以下のとおりです。

  • ZEB Oriented:BEI≦0.6(延床面積10,000㎡以上の建物)またはBEI≦0.7(50,000㎡以上)
  • ZEB Ready:BEI≦0.5(再生可能エネルギーを除く省エネ技術のみで達成)
  • Nearly ZEB:BEI≦0.25(再生可能エネルギーを含めた削減)
  • ZEB:BEI≦0(エネルギー消費量を実質ゼロに)

ZEB Ready(BEI≦0.5)を目指す場合、空調設備の省エネ対策だけでは達成が困難であり、太陽光発電・高効率照明・照明制御・給湯省エネなど、全設備での総合的な省エネ設計が不可欠です。空調設計者は、電気設計者や意匠設計者と連携し、建物全体でのBEI改善戦略を立案することが求められます。

省エネ計算でよくある落とし穴と注意点

省エネ計算の実務では、以下のような落とし穴に注意が必要です。

  • 入力値の誤り:COP値の入力間違い、ファン風量の単位間違い(㎥/hと㎥/min)など、単純な入力ミスがBEIに大きく影響する
  • ゾーニングの整合性:省エネ計算のゾーニングと実際の空調系統が一致していないと、正確な評価ができない
  • カタログ値と実力値の混同:メーカーカタログのCOPは定格条件での値であり、実際の運転COPとは異なる。計算ツールがどの値を求めているか確認する
  • 計算ツールのバージョン:国土交通省の計算ツールは定期的に更新されるため、常に最新バージョンを使用する

まとめ

省エネ基準と空調設計は密接に関連しており、空調設備は建物のエネルギー消費の最大の割合を占めるため、BEI達成における空調設計の役割は極めて重要です。設計のポイントを改めて整理します。

  • PAL*は意匠設計の領域だが、空調負荷に直結するため、ガラス仕様・WWR・断熱性能を早期に調整する
  • BEIに最も影響するのは熱源COP・搬送動力(VAV・VWV)・全熱交換器効率の3項目
  • 基本設計段階で目標BEIを設定し、トライアル計算で早期に見通しを確認する
  • ZEB Ready以上を目指す場合は、空調だけでなく全設備での総合的な省エネ設計が不可欠
  • 省エネ計算の入力値ミス・ゾーニング不整合・ツールバージョンに注意する

2025年の省エネ基準義務化により、空調設計者には省エネ計算を意識した設計がこれまで以上に求められています。基本設計の早い段階から省エネ計算を意識し、意匠・電気設計者と連携した総合的な省エネ設計を目指しましょう。

SUPERVISOR

監修者

長谷川一夫

機械設備設計部

パラダイム部長