非常用照明と誘導灯の違い|なぜ二重規制なのか
非常用照明と誘導灯は、どちらも火災時の避難安全を確保するための設備ですが、根拠法令・管轄官庁・目的がそれぞれ異なります。
- 非常用照明:建築基準法(令第126条の4)に基づく。停電時に避難経路を照らし、安全な避難を確保するための照明設備。所管は特定行政庁(建築主事)
- 誘導灯:消防法(施行令第26条)に基づく。避難口や避難方向をピクトグラムで表示し、在館者を安全な出口へ誘導するための設備。所管は消防署(消防庁)
この「二重規制」は設備設計者にとって混乱しやすいポイントです。本記事では、それぞれの設置対象・照度基準・電源方式・点灯時間の違いを明確に整理し、実務での設計フローとよくある失敗事例までを解説します。
非常用照明の設計基準(建築基準法)
非常用照明は、建築基準法施行令第126条の4で規定される、火災時の停電に備えて避難経路を確保するための照明設備です。
設置対象となる建物・居室
非常用照明の設置が義務付けられる主な建物・居室は以下のとおりです。
- 特殊建築物(別表第1対象)の居室およびその避難経路
- 階数が3以上の建物の居室およびその避難経路
- 無窓居室(採光上有効な開口部が床面積の1/20未満の居室)およびその避難経路
- 延床面積1,000㎡を超える建物の居室およびその避難経路
なお、一戸建て住宅や長屋の居室などには適用除外があります(令第126条の4ただし書)。適用除外となる居室については、所轄行政庁との事前協議で確認することが重要です。
照度基準と器具の要件
非常用照明の照度基準と器具の要件は以下のとおりです。
- 照度基準:床面において1lx以上(LED器具の場合は2lx以上)。照度は30分経過後の値で判定する
- 点灯時間:30分以上の点灯が必要
- 自動点灯:停電後自動的に点灯する構造が求められる(常時点灯型または停電検知点灯型)
- 器具の構造:火災時の熱や煙により機能が損なわれない構造。器具は国土交通大臣が定めた構造方法に適合する必要がある
電源方式の選定
非常用照明の電源方式は以下の2種類から選定します。
- 内蔵蓄電池方式(バッテリー内蔵型):器具内に蓄電池を内蔵し、停電時に自動で点灯する方式。小規模建物で多く採用される。配線がシンプルで施工も容易だが、蓄電池の定期交換(4〜6年)が必要
- 自家発電装置給電方式:非常用発電機から電力を供給する方式。大規模建物で採用されることが多い。蓄電池の交換が不要だが、発電機の電圧確立(40秒)までの間は点灯しないため、一部の居室では内蔵蓄電池型との併用も検討する
誘導灯の設計基準(消防法)
誘導灯は、消防法施行令第26条で規定される、避難口や避難方向を緑色のピクトグラムで表示し、在館者を安全に避難させるための設備です。
誘導灯の種類と設置場所
誘導灯はその目的に応じて以下の3種類に分かれます。
- 避難口誘導灯:避難口の上部またはその付近に設置。緑色のピクトグラム(走る人のマーク)で避難口を表示する。表示面の大きさに応じてA級・B級・C級に分類される
- 通路誘導灯:廊下や通路の曲がり角、分岐点に設置。避難方向を矢印で表示する。床面または床面近くの低い位置に設置するタイプもある
- 客席誘導灯:劇場・映画館・ホールなどの客席部分に設置。床面または座席の下部に設け、避難通路を示す
誘導灯の級別と表示面の大きさ
避難口誘導灯は、設置する建物の規模や避難口までの見通し距離に応じて級別(表示面の大きさ)が定められています。
- A級:表示面が大きく、遠距離からの視認が可能。大規模建物や避難口までの距離が長い場合に採用
- B級:標準的なサイズ。一般的なオフィスビルや商業施設で最も多く採用される
- C級:小型の表示面。小規模建物や避難口までの距離が短い場合に採用
誘導灯の電源と点灯時間
誘導灯の電源に関する主な要件は以下のとおりです。
- 点灯時間(一般):停電後20分以上の点灯が必要
- 点灯時間(大規模施設等):延床面積50,000㎡以上の地下街、地下駅舎などでは60分以上の点灯が必要
- 電源方式:内蔵蓄電池型が一般的。停電時に瞬時に点灯する必要があるため、自家発電装置のみでは対応できない(40秒のタイムラグがあるため)
- 常時点灯:誘導灯は原則として常時点灯が必要(非常用照明と異なり、普段から点灯しておく)
非常用照明と誘導灯の比較整理
非常用照明と誘導灯の要件を比較整理すると、以下のような違いがあります。設計時はこの違いを正確に把握し、両方の要件を漏れなく満たすことが重要です。
- 根拠法令:非常用照明は建築基準法(令126条の4)、誘導灯は消防法(施行令第26条)
- 目的:非常用照明は「避難経路を照らす」こと、誘導灯は「避難口・避難方向を表示する」こと
- 点灯時間:非常用照明は30分以上、誘導灯は20分以上(大規模施設は60分以上)
- 照度基準:非常用照明は床面で1lx以上(LEDは2lx)、誘導灯は表示面の明るさ(輝度)で規定
- 常時点灯:非常用照明は常時点灯・停電検知点灯のいずれも可、誘導灯は原則常時点灯
- 所管官庁:非常用照明は特定行政庁(建築主事)、誘導灯は消防署(消防庁)
実務での設計フローと注意点
非常用照明の設計手順
非常用照明の設計は、以下の手順で進めます。
- 設置対象の居室・避難経路を抽出する(令126条の4に基づく)
- 適用除外となる居室がないか確認する
- 電源方式(内蔵蓄電池型または自家発給電方式)を決定する
- 器具の配置計画を行い、床面での照度基準(1lxまたは2lx)を満たすことを確認する
- 照度計算または器具メーカーの配置シミュレーションで検証する
誘導灯の設計手順
- 避難口・避難経路を意匠設計図から確認する
- 避難口誘導灯・通路誘導灯・客席誘導灯の必要箇所を抽出する
- 建物規模・避難距離に応じた級別(A級・B級・C級)を選定する
- 点灯時間(20分または60分)を確認し、対応する蓄電池容量の器具を選定する
- 消防署との事前協議で設置位置・級別を確認する
よくある失敗事例と対策
非常用照明・誘導灯の設計でよく見られる失敗事例とその対策を整理します。
- 非常用照明と誘導灯の混同:根拠法令・設置基準が異なるため、両方を独立して検討する必要がある。非常用照明を設置したから誘導灯が不要、ということはない
- 照度不足:非常用照明の配置間隔が広すぎて、床面の照度基準を満たさないケース。器具メーカーの配光データで事前に検証する
- 誘導灯の級別選定ミス:建物規模に対して級別が不適切で、消防検査で指摘を受けるケース。消防署との事前協議で級別を確認する
- 蓄電池の容量不足:誘導灯の点灯時間が60分必要な建物で20分対応の器具を選定してしまうケース。建物規模から必要な点灯時間を正確に把握する
- 避難口上部の誘導灯設置漏れ:意匠図面の避難口位置と誘導灯図面の照合が不十分なケース。避難計画図と設備図面を必ず照合する
まとめ
非常用照明と誘導灯は、建築基準法と消防法の二重規制を受ける設備であり、設計者は両方の要件を正確に理解する必要があります。設計のポイントを改めて整理します。
- 非常用照明(建基法)は避難経路を照らす設備、誘導灯(消防法)は避難口・方向を表示する設備
- 非常用照明の照度基準は床面で1lx以上(LEDは2lx)、30分以上の点灯が必要
- 誘導灯は避難口誘導灯・通路誘導灯・客席誘導灯の3種類があり、20分または60分の点灯が必要
- 電源方式は内蔵蓄電池型と自家発給電方式があり、建物規模・用途に応じて選定する
- 両設備の混同を避け、それぞれ独立して設置基準を満たす設計を行う
非常用照明と誘導灯の設計は、確認申請(建基法)と消防同意(消防法)の両方でチェックされる重要項目です。意匠設計図の避難計画と設備図面の照合を役所ごとに慷重に行い、漏れのない設計を目指しましょう。
監修者
猪狩理
設備設計士
パラダイム部長



