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空調方式の選び方|中央熱源・個別分散とビルマルチを比較

空調方式は建物の面積だけでは決まりません。中央熱源と個別分散の違い、個別分散に含まれるビルマルチの位置づけを整理し、温湿度・運転時間・設置スペース・保守更新・ライフサイクルコストから候補を比較する手順を、具体例と確認表で解説します。

空調方式の選定フロー|個別分散・セントラル・VRFの判断基準
空調・換気
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空調方式を選ぶときは、まず中央熱源方式と個別分散方式を区別し、各室の温湿度・運転時間・負荷に合う構成を比較します。ビルマルチ(VRF)は個別分散方式の一種です。延床面積だけで採用方式を決めず、外気処理、設置スペース、保守更新まで含めて判断することが重要です。

この記事では、非住宅建築物の基本計画・基本設計を想定し、方式の違いから候補を絞る手順までを整理します。方式選定は一度で完了する作業ではなく、負荷計算や意匠計画と照合しながら見直します。

空調方式の大分類|中央熱源と個別分散

中央熱源方式は、冷凍機・ヒートポンプチラー・ボイラー等でつくった冷温水などを、各階・各室の空調設備へ供給する構成です。地域冷暖房から熱供給を受ける場合もあります。個別分散方式は、各室やゾーンに対応した熱源・空調機の組合せで処理する構成で、店舗・オフィス用パッケージエアコンやビルマルチなどが代表例です。

大分類

代表的な構成例

個別に調整する方法

別に確認する項目

中央熱源

冷温水をAHU・FCU等へ供給

FCUの温度制御、VAVによる風量制御など

熱源・ポンプ・搬送設備の運転範囲、最小負荷への対応

個別分散:店舗・オフィス用パッケージ

室外機と1台または複数台の室内機

ペア運転、同時運転マルチ、個別運転マルチなど

室内機が個別に運転できる組合せか

個別分散:ビルマルチ(VRF)

冷媒配管で複数の室内機を接続

室内機・リモコングループごとの制御

冷暖切換/冷暖同時の仕様、能力配分、冷媒系統の停止範囲

ダイキンもビル用マルチを個別分散方式として説明しています。「個別分散・中央熱源・VRF」という同列の3分類にすると、比較する範囲が重なります。出典:ダイキン「新しい市場を生みだす力」

熱源の配置と、空気・水・冷媒の搬送方法を分けて考える

中央/個別という分類だけでは、天井内のダクト量や各室の制御性能は決まりません。AHU(空気調和機)から空気を送る構成、FCU(ファンコイルユニット)で室内負荷を処理する構成、冷媒を室内機へ送る構成などを重ねて確認します。パッケージエアコンにもダクト接続形があり、換気ダクトが必要になる場合もあるため、「個別分散ならダクト不要」とは限りません。

方式比較|温湿度・外気処理・スペース・保守更新

各方式に一律の優劣を付けるよりも、同じ要求条件を満たす構成同士で比較します。例えば、中央熱源でも末端側で個別制御は可能ですが、時間外に小さな区画だけを使う場合は、熱源やポンプをどこまで運転する必要があるかが重要です。

比較項目

中央熱源で確認すること

個別分散で確認すること

温湿度・空気質

AHU等で処理する顕熱・潜熱・外気量、加湿や清浄度の要求

室内機の除湿能力と、外調機・換気設備との役割分担

部分運転

熱源の台数制御、最小流量、ポンプと末端機器の連動

室内機の操作単位、室外機の運転範囲、冷暖モードの制約

設置スペース

機械室、配管シャフト、ダクト、必要に応じ冷却塔等

室外機の放熱・点検スペース、冷媒配管、外気処理設備

停止の影響

熱源・ポンプの故障や点検が及ぶ範囲、バックアップ構成

冷媒系統や電源ごとの停止範囲、故障時に残せる空調

更新工事

熱源の搬出入、配管の状態、更新中の運転確保

室外機の搬出入、既設配管の再利用条件、室内機の更新範囲

運転費

熱源効率に加え、ポンプ・ファン等の搬送動力を含める

部分負荷や外気温による能力・効率、換気設備の動力を含める

個別分散を採用する場合も、換気量や湿度の条件を満たす外気処理計画が必要です。全熱交換器だけで処理できる範囲と、残る外気負荷をどの機器が負担するかを明確にします。反対に、中央熱源というだけで湿度管理や空気清浄度が保証されるわけでもありません。

空調方式の選定フロー

1.用途と要求性能を整理する

室温・湿度、在室人数、外気量、騒音、清浄度、許容停止時間を整理します。病院でも一般病室と手術室、ホテルでも客室と宴会場では要求が異なります。建物全体を一方式で統一することを前提にせず、特殊な要求がある区画を先に抽出します。

2.運転時間と操作単位を決める

平日の標準運転、時間外利用、休日、24時間運転を分け、誰がどの範囲を操作するかを確認します。複数の室内機を接続するマルチでも、同時運転形と個別運転形では使い方が異なります。ダイキンのペア・マルチの説明も、間仕切りや使用時間に応じた使い分けを示しています。系統と操作の割付は空調ゾーニングの考え方で詳しく解説しています。

3.負荷と能力の確認を行う

室別の冷暖房負荷に加え、外気負荷、予熱・予冷、同時に使う範囲を確認します。面積は初期検討の情報ですが、同じ面積でも窓・人数・発熱機器・運転時間により負荷が変わります。室内機の能力と建物全体の熱源容量は分けて検討し、熱負荷計算と往復して候補を見直します。

4.納まり・施工・更新の条件を照合する

機械室・屋上・バルコニーの面積だけでなく、重量、放熱、騒音、配管長・高低差、ドレン、点検口、将来の搬出入経路まで確認します。初期に据え付けられても、更新時に建物を大きく解体しなければ搬出できない構成では、長期の費用と停止時間が増えます。

5.同じ条件でライフサイクルコストを比べる

LCCは、初期費用に運転・保守・更新等を加えた評価です。評価期間、エネルギー単価、運転スケジュール、機器の更新範囲、見込む停止期間をそろえて比較します。機器単体のCOPや購入価格だけで、システム全体の優劣を決めないようにします。

国土交通省の官庁施設向け設計基準でも、方式選定はゾーニング、設置スペース、温湿度、省エネルギー性能等を考慮する構成です。これは官庁施設の実施設計の基準であり、民間建物すべての法定仕様を示すものではありません。出典:建築設備設計基準・令和6年版

同じ面積でも候補が変わる|比較の具体例

以下は判断方法を示す仮想例です。実際の採用結果や当社の実績を示すものではありません。

  • 使用時間がばらつく貸事務所:時間外に小区画だけ動かせること、テナントごとの操作・費用配分、入替時の間仕切り変更が重要です。個別分散を候補にしつつ、冷媒系統を共有した場合の制約や中央熱源の部分運転案も比較します。
  • 運用時間がそろった施設:外気量や湿度条件、管理体制を踏まえ、中央熱源と空気処理設備の組合せを候補にします。ただし、夜間も動く特殊室があれば、独立設備との組合せを検討します。
  • 既存建物の改修:屋上の放熱スペースや搬入、既設配管、工事中の使用継続が制約になります。新築時の方式比較と同じ結論になるとは限りません。

施主・設計者で先に確認する条件

確認事項

選定への影響

そろえる資料

時間外・休日利用

最小の運転区画、部分負荷の運転方法

室別の利用時間表

テナントの分割・統合

制御・系統・計量の分け方

現況平面と将来区画案

許容停止時間

冗長性、仮設空調、更新の工区

業務継続の要求条件

管理・保守の体制

日常管理、点検、故障対応の方法

管理担当・保守契約の想定

増床・人数・機器の変更

能力の余裕と増設方法

将来計画、機器リスト

省エネ・冷媒・非常時対応の確認

方式の候補を決めたら、建物用途・規模・手続きに応じた省エネ性能の確認を行います。非住宅の適合義務と、誘導基準や外皮の評価は同じ扱いではありません。制度の全体像は建築物省エネ法の解説を参照し、方式選定の数値評価と手続きを混同しないようにします。

冷媒の種類、設置室の条件に応じた安全対策、保守時の回収・漏えい管理も確認します。非常時の空調継続が必要なら、発電機容量だけでなく、対象の熱源・ポンプ・ファン・制御電源の運転範囲を合わせて整理します。

空調方式の選定では、「採用する方式名」と「その条件で採用する理由」をセットで残すことが大切です。要求性能、運用、負荷、納まり、LCCを同じ表で比較すると、建主・意匠・設備・管理者の合意を取りやすくなります。

参考資料の確認日:2026年10月9日。