外気処理が空調の省エネと快適性を左右する理由
建築物の換気は、室内の空気質と在室者の快適性・健康を維持するための基本要件です。建築基準法の居室必要換気量は1人あたり20㎥/h以上、ビル管理法(特定建築物)ではCO2濃度1,000ppm以下が求められ、オフィスでは25〜30㎥/h・人を設計値とするのが一般的です。一方で、導入する外気には大きな熱・湿気負荷が伴い、日本の夏季のような高温多湿条件では、外気負荷が冷房負荷全体の30〜40%を占めることも珍しくありません。外気負荷をどう削減・回収して処理するかは、空調設備の年間エネルギー消費量とBEI(建築物の一次エネルギー消費性能指標)を左右する最重要テーマのひとつです。本記事では、外気処理設計の基本フロー、外気負荷の構造、全熱交換器・外調機・デシカント空調といった主要方式の使い分け、CO2デマンド換気・外気冷房などの制御テクニック、給排気バランスや防火・維持管理といった実務上の留意点までを整理します。
外気処理設計の基本フロー
外気処理の検討は概ね次の流れで進めます。第一に、用途・在室人員密度・床面積から各室の必要換気量を算出し、ゾーンごとに合計外気量を整理します。第二に、空調方式(セントラルAHU方式・VRF方式・個別分散方式)を踏まえて、外気処理を空調機側に組み込むか、外気処理空調機(外調機/OAU)や全熱交換器に独立させるかの方針を決めます。第三に、夏期・冬期の外気負荷(顕熱・潜熱)を計算し、全熱交換器による熱回収後の残負荷を、室内空調機または外調機で処理する熱量配分を決定します。第四に、CO2デマンド換気・外気冷房(フリークーリング)・夜間外気冷却(ナイトパージ)などの制御を組み合わせて年間エネルギーを最小化します。最後に、給排気ダクトの取り回し、外気取入口と排気口の離隔、防火ダンパーやフィルターの配置、メンテナンススペースを意匠・構造と調整して計画を確定します。
外気負荷の構造と必要換気量の根拠
外気負荷は、室内外の温度差による顕熱負荷と、絶対湿度差による潜熱負荷の合計として把握します。例えば東京の夏期設計条件(外気34℃・相対湿度63%程度)と室内設定(26℃・50%)の比較では、エンタルピー差はおよそ40kJ/kgに達し、そのうち半分以上を潜熱(除湿に必要な熱量)が占めます。冬期設計条件(外気1〜2℃・相対湿度40%程度)でも、加湿を伴う場合は潜熱負荷が無視できません。全熱交換器が顕熱と潜熱の双方を回収できる利点を活かせるのは、まさにこの潜熱比率の高さに理由があります。
必要換気量は、建築基準法の20㎥/h・人を最低ラインに、ビル管理法のCO2濃度1,000ppm以下、ホルムアルデヒドや臭気の希釈、ZEB志向の建物では室内空気質(IAQ)の上位グレードへの対応など、複数の要求から決定します。在室人員密度の不確定性を踏まえ、実運用での同時在室率を見込んで設計値を定め、CO2デマンド換気で過剰換気を抑える前提で考えると合理的です。在室密度が高い会議室や多目的ホールでは、ピーク時に必要換気量を確保しつつ、平常時はCO2基準で外気量を絞る運用がエネルギー削減に直結します。
主な外気処理方式の特徴と使い分け
全熱交換器(静止形・回転形)
全熱交換器(エンタルピー交換器)は、排気と給気の間で温度(顕熱)と湿度(潜熱)の両方を回収する装置です。静止形(直交流形)はエレメント内で給気と排気が交差するタイプで、温度交換効率60〜70%程度・全熱交換効率55〜70%程度が目安です。漏れが少なく信頼性が高いため、オフィス・学校・店舗など一般居室の天井裏設置で広く採用されます。回転形は吸湿・吸熱性のあるロータが回転して熱と湿気を移動させるタイプで、温度交換効率70〜80%程度と高効率である反面、給気と排気の間でロータ表面に付着した空気のキャリーオーバーが発生するため、トイレ・厨房・実験室など汚染空気を含む排気には使えません。大風量で給排気ダクトを集約できる中規模以上のセントラルAHUに組み合わせるケースが多くなります。
全熱交換器の効率はカタログ値で示されますが、実運用では風量バランス・フィルター目詰まり・温湿度条件によって低下します。設計時は、最頻外気条件での実効効率と、フィルター目詰まりを見込んだ機外静圧でファン動力を算定すると、過大評価を避けられます。
外気処理空調機(外調機・DOAS)
外気処理空調機(外調機、OAU)は、外気を直接冷却・加熱・除湿・加湿して、室内設定温湿度に近い状態まで処理してから供給する専用機です。冷却コイル・加熱コイル・加湿器・フィルターを内蔵し、外気100%条件で動作する設計のため、夏期の高湿外気を確実に除湿し、冬期は加湿まで含めた処理ができます。VRFや個別分散方式のように室内機自体に外気処理能力がない方式では、外調機または全熱交換器による外気処理が事実上必須となります。
近年は、外気処理を室内空調から完全分離するDOAS(Dedicated Outdoor Air System)の考え方が普及しています。外調機で外気の顕熱・潜熱を全て処理し、室内側の空調機(VRF室内機・FCU・チルドビームなど)は内部発熱処理に専念させる構成で、潜熱負荷から解放された室内側を顕熱寄りに最適化できるため、年間エネルギー削減と室温・湿度の独立制御の両立が可能になります。全熱交換器を組み込んだDOAS機(全熱交換ユニット+冷温水コイル)も製品化されており、外気負荷の徹底削減を狙う案件で採用が進んでいます。
デシカント空調
デシカント空調は、乾燥剤(デシカントロータ)で外気の水分を吸着させて湿度を下げる方式です。冷却除湿のように露点温度まで冷やさずに除湿できるため、低湿度環境(美術館・博物館・電子部品工場・特殊医療施設など)や、潜熱負荷が極めて大きい環境(プール施設・食品工場・厨房など)で有効です。デシカントの再生には熱エネルギーが必要ですが、コージェネ排熱・太陽熱・ヒートポンプの凝縮熱などを活用することで、システム全体としてのCOPを高められます。一般オフィスでは過剰仕様になりがちで、用途特化型の選択肢として位置付けるのが妥当です。
全熱交換器選定の実務ポイント
全熱交換器を選定する際は、まず風量と効率の整合を確認します。必要外気量は在室人数×1人あたり外気量(オフィスは25〜30㎥/h・人、ホール等の高密度用途は別途検討)で算出し、CO2デマンド制御を併用する場合は最大値を設計風量、平常時は60〜80%稼働を想定します。形式は、オフィス・住宅・学校など一般居室では静止形が主流、大風量・高効率を狙うセントラル系統では回転形を選択します。トイレ・厨房・実験室の排気は別系統とし、全熱交換器の排気側には接続しないのが鉄則です。
バイパス制御は省エネ性能を大きく左右します。中間期や夜間で外気エンタルピーが室内エンタルピーを下回る条件では、全熱交換器を経由せずに外気を直接導入したほうが冷房に有利になります。バイパスダンパーと外気・室内のエンタルピー検知(温湿度センサー)を組み合わせ、自動切替する制御を標準仕様としておくと、年間運転で大きな差が出ます。エンタルピー比較が難しい場合でも、温度のみによる簡易制御(例:外気温度が室内設定より一定以上低い時にバイパス)でも一定の効果があります。
結露対策も忘れがちなポイントです。冬期に全熱交換器を通過した低温外気が直接ダクト内を流れると、ダクト表面や吹出口周辺で結露が発生するおそれがあります。全熱交換器出口に予熱コイル(電気ヒーターまたは温水コイル)を設置する、ダクトに保温施工を行う、寒冷地ではエレメント凍結防止のためのデフロスト制御や予熱を組み込むといった対策を、地域条件に応じて選定します。給気フィルター(一般にMERV8〜13クラス)の設置と、定期清掃・交換のためのメンテナンススペース確保も設計段階で必ず織り込みます。
外気負荷低減の制御テクニック
CO2濃度によるデマンド換気は、外気負荷低減のもっとも効果的な手法のひとつです。室内またはリターンダクトにCO2センサーを設置し、CO2濃度が設定値(1,000ppmが一般的、より厳しい設定で800ppmなど)を超えた場合に外気量を増加させ、低い場合は外気量を絞る制御です。在室人数の変動が大きい会議室・多目的ホール・教室・レストランなどで効果が顕著で、年間外気負荷を20〜40%削減できる事例もあります。VAV外気ファンやインバータ制御と組み合わせ、給気・排気のバランスを保ったまま風量を可変させる設計とします。
外気冷房(フリークーリング)は、中間期や朝方に外気エンタルピーが室内より低い時間帯に、冷凍機を使わず外気導入だけで冷房を行う手法です。全熱交換器のバイパス運転とセットで運用し、外気量を換気必要量から最大導入量まで増やすことで、内部発熱を直接外気で吸収します。内部発熱が大きいオフィスビルでは外気温15℃前後でも冷房需要があるため、フリークーリングの活用期間は意外と長く、年間100時間以上の冷凍機停止時間を稼げる事例もあります。
夜間外気冷却(ナイトパージ)は、夏期の夜間〜早朝に外気を大量導入して躯体を冷やし、翌朝の立ち上がり負荷を低減する制御です。蓄熱性のあるコンクリート躯体・床仕上げ・什器に冷気を蓄え、朝一の冷凍機運転を遅らせる効果が得られます。BEMSと連携して外気温・室温・予測気温に基づいた自動運用とすると、運用フェーズで安定した省エネ効果が出ます。
給排気バランス・取入口配置・防火・維持管理の注意点
全熱交換器は給気と排気の風量を概ね同等にしないと、想定の熱回収効率が出ず、室圧バランスも崩れます。排気量が給気量を大きく上回る用途(飲食店舗の厨房、実験室の局所排気など)では、全熱交換器だけでは成立しないため、外調機との併用や、給気専用ファン+全熱交換器の組み合わせで給排気バランスを取る設計とします。逆に、クリーンルームや病室のように陽圧・陰圧の維持が要件となる用途では、ゾーンごとの圧力差を踏まえて外気量・排気量・差圧制御を別個に組み立てる必要があります。
外気取入口と排気口の配置も、性能と衛生の両面で重要です。両者の水平距離は3m以上を目安に離隔し、近接する場合は取入口を排気口より下方かつ風上側に配置するなど、排気の再導入(ショートサーキット)を避ける工夫が必要です。取入口は地上から1.5m以上、雨水・雪・落葉の侵入を防ぐためにルーバーや防虫網を取り付け、排気口側は屋上面や開口部、隣地境界からの離隔基準を満たす位置に設けます。ダクトが防火区画を貫通する箇所には防火ダンパー(FD・SFD)を設け、煙感知器連動が必要な箇所には煙感知ダンパーを採用します。
維持管理面では、フィルター清掃・交換(一般に3〜6か月ごと)、エレメント点検・清掃(年1回程度)、ドレンパン・トラップの点検が必要です。天井裏に設置する小型全熱交換器では点検口の位置と大きさが意匠と直結するため、機器側面・上部の点検アクセスが取れる位置に配置し、点検口は450×450mm以上を確保するのが目安です。設計段階でメンテナンス動線を意匠と合意しておくと、運用フェーズの清掃・交換コストを抑えられます。
省エネ基準・BEIへの寄与と方式選定の整理
2025年4月から、原則すべての新築建築物に省エネ基準適合が義務化されました。非住宅建築物のBEI(設計一次エネルギー消費量/基準一次エネルギー消費量)算定では、全熱交換器の温度交換効率と全熱交換効率、CO2デマンド換気、外気冷房といった制御の有無が直接エネルギー消費量に反映されるため、外気処理の作り込みは適合可否とZEB認証グレードの双方に大きく効きます。とくにZEB Ready以上を狙う案件では、全熱交換器+DOAS+CO2デマンド換気+外気冷房の組み合わせがほぼ標準セットになりつつあります。
方式選定の整理としては、一般的なオフィス・学校・店舗で空調方式がVRFや個別分散方式の場合は、各ゾーン天井裏に静止形全熱交換器を配置し、CO2デマンド換気とバイパス制御を組み合わせるのが第一候補となります。中規模以上のセントラル系統で外気量が大きい場合は、回転形全熱交換器または全熱交換ユニット内蔵の外調機(DOAS機)を採用し、室内側はFCUやVRF室内機で顕熱処理に特化させます。低湿度環境や厨房・プールなど特殊用途は、デシカント空調の併用を検討します。いずれの方式でも、設計段階で外気負荷の構造(顕熱・潜熱比率)と年間エネルギーシミュレーションを確認しておくことが、過剰仕様や運用フェーズの不具合を避ける鍵になります。
まとめ
外気処理は、空調設計の中で省エネ性能と快適性をもっとも左右するテーマのひとつです。外気負荷の構造(顕熱・潜熱)と必要換気量の根拠を理解したうえで、全熱交換器・外調機(DOAS)・デシカント空調を用途と空調方式に応じて使い分け、CO2デマンド換気・外気冷房・夜間外気冷却といった制御を組み合わせることで、年間エネルギーを大きく削減できます。設計上は、給排気バランス、外気取入口・排気口の離隔、防火ダンパー、フィルターやエレメントのメンテナンスアクセスを意匠・構造と早期に調整しておくことが、運用フェーズで期待性能を発揮するための条件です。当ポータルの外気負荷計算ツール・全熱交換器選定チェックツールも、初期検討の効率化にぜひご活用ください。
監修者
長谷川一夫
機械設備設計部
パラダイム部長



