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給水方式の選定フロー|直結直圧・直結増圧・受水槽方式の判断基準と実務

給水方式の選定を、直結直圧・直結増圧・受水槽方式(ポンプ直送・高置水槽)の特徴と適用範囲から整理。建物規模・BCP要件・水道事業者協議・ゾーニング・LCCまで、設計実務で押さえるべき判断基準を解説します。

給水方式の選定フロー|直結直圧・直結増圧・受水槽方式の判断基準と実務
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公開日
2026年5月12日
更新日
2026年5月12日

給水方式の選定が建物計画全体を左右する理由

給水方式の選定は、建物の給水設備設計でもっとも早い段階に下す重要判断であり、その後の意匠・構造・運用まで広く波及します。方式によって、受水槽・ポンプ室の有無とそのスペース、給水圧力の系統構成、水質管理コスト、ライフサイクルコスト(LCC)、そして水道事業者との事前協議の中身が大きく変わります。逆に言えば、基本計画の早期に方式を確定させておかないと、PSやポンプ室位置の決定、引込口径や量水器位置、屋上荷重などの諸条件が後追いとなり、意匠・構造への手戻りやコスト増を招きます。本記事では、直結直圧・直結増圧・受水槽方式(ポンプ直送・高置水槽)の特徴と適用範囲を整理し、選定フロー、水道事業者協議、ゾーニングや水撃対策、LCCの観点までを設計実務の視点でまとめます。

給水方式選定の基本フロー

給水方式の選定はおおむね次の流れで進めます。第一に、建物用途・階数・延床面積・想定居住人員から1日使用水量と時間最大使用水量を概算します。第二に、敷地前面の配水管口径と動水圧、最寄りの本管末端での余裕、引込可能な口径について水道事業者と事前協議を行い、直結方式の適用可否を確認します。第三に、用途要求とBCP方針(断水時の給水継続日数、災害拠点性、24時間運用の有無)を整理し、保有水の必要性を判断します。第四に、設置スペース・建物高さ・屋上荷重・搬入条件から、各方式の物理的成立性を確認します。第五に、イニシャルコスト・ランニングコスト・維持管理コストを含むLCCを比較し、最終的に方式を確定します。最後に、確定方式に基づき、引込口径・量水器位置・受水槽容量・増圧ポンプ仕様・圧力ゾーニングを設計に反映します。

実務上の落とし穴は、方式の比較検討よりも、水道事業者協議の遅れと屋内スペース調整の後追いです。基本設計の早い段階で方式を仮置きし、協議とスペース確認を並走させるのが効率的です。

主な給水方式の特徴と適用範囲

直結直圧方式

水道本管の動水圧をそのまま利用して建物内に給水する方式です。受水槽・ポンプともに不要なため、設置スペース・イニシャルコスト・維持管理費のいずれも最小で、本管から器具まで密閉系で給水されるため水質も良好に保たれます。一方で、適用範囲は配水管の動水圧と引込口径に依存し、一般に2〜3階建て程度の小規模建物(戸建住宅・小規模店舗・小規模事務所)が中心となります。最上階のフラッシュバルブやシャワーなど必要圧力が高い器具がある場合は、本管動水圧から高さに応じた位置エネルギーと配管摩擦損失を差し引いた残圧で器具必要圧力(フラッシュバルブで70kPa以上、シャワーで50〜70kPa)が確保できるかを必ず検証します。断水時には給水が完全停止するため、BCP要件のある建物には不向きです。

直結増圧方式

水道本管から受水槽を介さずに、直結増圧ポンプで加圧して建物内に給水する方式です。受水槽が不要なためスペース効率に優れ、密閉系で水質も良好に維持されます。中高層マンションや中規模オフィスビルで現在もっとも普及している方式で、地域や水道事業者にもよりますが、概ね10階建て程度(一部地域では15階程度まで)が適用上限の目安です。直結増圧ポンプは、近年は推定末端圧力一定制御やインバータ制御によって省エネ性と圧力安定性が向上しており、配管系統の圧力変動も抑えやすくなっています。

適用にあたっては、水道事業者の指定する増圧ポンプの基準適合品(認定品)の使用、引込口径の制限、本管圧力低下時の運転停止条件、定期点検義務など、地域ごとの取り決めを踏まえる必要があります。受水槽方式と異なり保有水を持たないため、断水・停電時には給水が止まる点は直結直圧と同様で、BCPの観点からは弱点になります。

受水槽方式(ポンプ直送)

水道水を受水槽に一旦貯留し、加圧給水ポンプユニットで増圧して各階に給水する方式です。受水槽の保有水により断水時にも一定時間の給水継続が可能で、BCP対応力が高いのが最大の特徴です。中規模以上の事務所ビル・商業施設・ホテル・病院などで広く採用されます。加圧ポンプは複数台構成(自動交互運転・台数制御)として、ピーク使用流量と省エネ性を両立させるのが一般的です。圧力タンク式(小流量域用)と組み合わせる構成も普及しています。

デメリットは、受水槽の設置スペース(六面点検スペース・搬入経路を含む)、年1回以上の清掃と水質検査の義務、水質悪化リスクへの配慮(滞留時間の短縮・2槽分割など)が必要になることです。受水槽容量の決め方や設置スペースの考え方は、関連記事で詳しく整理しています。

受水槽方式(高置水槽併用)

受水槽から揚水ポンプで屋上の高置水槽に汲み上げ、そこから重力で各階に給水する方式です。停電時にも高置水槽内の保有水量分は給水できる点と、給水圧力が安定する点が利点です。一方で、屋上に水槽を載せることによる耐震上の負担、塔屋の必要性、屋上機器との取り合い、夏場の水温上昇・冬場の凍結対策などの課題があり、新築では加圧ポンプ直送方式に置き換えられるケースが増えています。一方、既存ストックの改修や、長時間停電時の給水継続を最優先する施設、地震時の機械系の途絶リスクを抑えたい施設では、現在も合理的な選択肢として採用されます。

建物用途・規模・BCPによる方式選定の判断基準

方式選定の基本軸は、建物規模・水道事業者の許容範囲・BCP要件の3つです。3階以下で給水量が小さい用途(戸建住宅・小規模店舗・小規模事務所)は直結直圧が第一候補で、本管動水圧と最上階器具の必要圧力を照合して採否を判断します。4〜10階程度の中高層マンション・中規模オフィス・小〜中規模商業施設では、直結増圧方式が標準的な選択肢となり、地域の許容階数と引込条件の枠内で採用します。

10階を超える中高層・大規模建物、または病院・ホテル・データセンター・24時間運用施設のように給水継続性が事業継続に直結する用途では、受水槽方式(ポンプ直送)が基本となります。災害拠点病院や防災拠点では、受水槽容量にBCP用の保有水を上乗せし、非常用発電と組み合わせることで停電時の運転継続を担保します。長時間停電時に機械系が止まっても給水を継続したい施設では、高置水槽方式や、受水槽からのバイパス給水(重力流下による非常時取水)を検討するケースもあります。

用途複合の建物では、住宅部を直結増圧、商業・事務所部を受水槽方式とするなど、ゾーンごとに方式を分けるケースもあります。テナント変更や用途転用への対応力、メーター集中検針の要否、水道料金体系(直結は各戸契約、受水槽は親メーター運用が主流)も含めて、長期運用の観点から判断します。

水道事業者との事前協議のポイント

給水方式の検討は、水道事業者との事前協議とほぼ同時並行で進めるのが定石です。協議で確認すべき主な項目は、敷地前面の配水管口径と動水圧(とくに使用ピーク時の動水圧)、引込可能な口径と本数、量水器の設置位置と口径、直結増圧方式の適用条件と階数上限、認定増圧ポンプの指定有無、受水槽方式での引込口径の制限、緊急遮断弁の設置義務といった点です。地域によって運用条件が大きく異なるため、複数自治体でプロジェクトを並走させる場合は、各案件で個別に協議内容を文書化しておくのが安全です。

とくに直結増圧方式は、地域条例や事業者指針によって階数・用途・引込口径の上限が細かく規定されています。「10階まで可」と一括りに語られがちですが、実際には15階以上まで認める地域もあれば、6〜8階で受水槽方式を求められる地域もあります。基本設計の初期段階で、想定方式を持って事業者と顔合わせを行い、適用条件と必要書類を早期に共有しておくことが、後工程の手戻り防止に直結します。

ゾーニング・水撃・クロスコネクションなど実務上の注意点

高層建物では、最下階の給水圧力が過大にならないよう圧力ゾーニングを行います。住戸・客室・事務所階の給水圧力は概ね0.3〜0.5MPaの範囲に収めるのが一般的で、上限値(おおむね0.5MPa以下)を超えると器具寿命の短縮や水撃の発生、漏水リスクの増加を招きます。下限値はフラッシュバルブやシャワーの必要圧力(70kPa前後)を確保することが条件で、ピーク時の同時使用を考慮した動水圧で確認する必要があります。ゾーニングは、増圧ポンプの分割(ゾーン別ポンプユニット)または減圧弁の設置で対応します。

水撃(ウォーターハンマー)対策も必須です。フラッシュバルブ・電磁弁・洗濯機水栓など急閉する器具の上流に水撃防止器を設置し、立管の管路長や流速、配管の支持要領も水撃発生を抑える方向で計画します。流速の目安は1.5〜2.0m/s以下とし、これを超える場合は管径を1サイズアップして流速を落とすのが定石です。

クロスコネクションの防止は、給水設備設計の基本ルールです。上水と雑用水(中水・雨水利用水・井戸水・冷却水・消火水など)の配管が直接接続されることのないよう、配管系統を完全に分離し、識別表示と弁類の配置に細心の注意を払います。雑用水と上水を同一PSに通す場合でも、配管材色分けや表示札を徹底します。器具側では、洗面器・流し・大便器のオーバーフロー口や吐水口空間(吐水口と水面の間に150mm以上)を確保し、逆流防止器(バキュームブレーカ・逆止弁)を必要箇所に設置することで、逆サイフォン現象による上水汚染を防ぎます。雨水利用設備や中水道を導入する場合は、上水補給ラインに減圧式逆流防止器を設けるのが標準です。

受水槽方式を採用する場合は、受水槽の周囲に六面点検スペース(側面・前後・底面下に600mm以上、上部に1,000mm以上)と搬入経路の確保が不可欠です。意匠設計者と早期にスペース調整を行い、機械室位置・寸法・扉位置・床荷重を一括で確定させましょう。

ライフサイクルコストと将来運用を見据えた選定

給水方式の選定では、イニシャルコストだけでなくランニングコスト・維持管理コスト・更新コストを含めたLCCで比較するのが本来の姿です。直結直圧はほぼランニング・維持管理コストがゼロに近い一方、適用範囲が限定されます。直結増圧は、増圧ポンプの電力費と定期点検・交換費(一般に10〜15年で更新)が発生しますが、受水槽の清掃・水質検査費用は不要です。受水槽方式は、ポンプ電力費に加えて受水槽清掃費(年1回以上)・水質検査費・受水槽の更新費(FRPで概ね20〜25年、SUSでより長寿命)が継続的に発生しますが、保有水によるBCP価値が加算されます。

また、水道料金体系も方式選定に影響します。直結方式は各戸または各テナントに個別契約・個別メーターを設置でき、水道料金が直接利用者負担となるため、賃貸オフィスや分譲マンションで好まれる傾向があります。受水槽方式は親メーター方式が一般的で、共用部での料金按分が必要となるため、運用フェーズの事務負担を考慮しておきます。将来の用途変更・テナント入替えや、ゼロエミッション・節水・雨水利用といった環境配慮要件も視野に入れて、長期運用に耐える方式を選びましょう。

まとめ

給水方式の選定は、建物規模と水道事業者の許容範囲、BCP要件、設置スペース、LCCを総合的に判断して決定します。直結直圧は小規模・低層、直結増圧は中高層の主流、受水槽方式(ポンプ直送)は大規模・BCP要件が高い建物、高置水槽併用は長時間停電時の給水継続を最優先する施設という整理が基本です。選定にあたっては、水道事業者との事前協議を基本設計の早期に行い、引込条件と適用上限を文書で確認しておくこと、ゾーニング・水撃・クロスコネクションといった実務上の落とし穴を設計に織り込むこと、そしてLCCと将来運用の観点から方式を判断することが、長期に評価される給水設備設計の条件になります。当ポータルの給水方式選定チェックツールも、初期検討の効率化にぜひご活用ください。

監修者

長谷川一夫

機械設備設計部

パラダイム部長