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熱負荷計算の基本と概算手順|5ステップの初期検討と動的シミュレーションへの移行

熱負荷計算の基本を、概算と動的シミュレーションの二段階アプローチで整理。外皮負荷・内部発熱・外気負荷の構成要素、初期検討で使える5ステップの概算手順、用途別の冷暖房負荷目安、躯体蓄熱や顕熱比など詳細計算への移行ポイントまで、空調設備設計の実務視点で解説します。

熱負荷計算の基本と概算手順|5ステップの初期検討と動的シミュレーションへの移行
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公開日
2026年5月14日
更新日
2026年5月15日

熱負荷計算が空調設計の出発点になる理由

熱負荷計算は、空調設備設計でもっとも基本的かつ重要なプロセスです。建物が受ける熱の出入りを定量的に把握し、空調機器の容量を決定するための基礎データを算出するもので、計算結果は機器選定だけでなく、ダクトサイズ・配管径・電気容量・受変電容量、さらには省エネ基準計算の基礎データにまで波及します。負荷を過小に見積もれば夏のピーク時に冷房能力が足りず、過大に見積もれば設備コストが膨らみ、部分負荷効率も悪化するため、過不足のない計算が設計全体の品質を左右します。本記事では、概算と詳細計算という二段階のアプローチを前提に、熱負荷の構成要素、初期検討で使える5ステップの概算手順、用途別の負荷目安値、動的シミュレーションへの移行ポイント、よくある失敗と対策までを、設計実務の視点で整理します。

熱負荷計算の基本フローと二段階アプローチ

熱負荷計算は、設計フェーズに応じて精度を上げていくのが実務の基本です。基本計画から基本設計初期では、用途別の単位負荷や外皮負荷の概算値を使って、建物全体・ゾーンごとの冷暖房ピーク負荷をすばやく算出し、熱源容量・空調機方式・PSや機械室のスペース計画といった大きな方針を固めます。基本設計後半から実施設計では、HASP/ACSS、BEST、LCEM、TRNSYSといった動的熱負荷シミュレーションを用いて、時刻別の負荷変動・蓄熱効果・ゾーン間の熱移動・部分負荷時の運転状況まで踏まえた精緻な計算に移行します。

もうひとつ意識したいのは、空調機容量と熱源容量の違いです。空調機(AHU・FCU・室内機)の容量は、各ゾーン・各室のピーク負荷で決まります。一方、ビル全体の熱源(冷凍機・ボイラー・ヒートポンプチラー)の容量は、各ゾーンのピーク発生時刻が異なるため、各室ピークを単純合計するのではなく、年間時刻別ピーク負荷から同時使用率を考慮して算定します。概算段階でこの違いを意識しておかないと、熱源が過大になりやすい点に注意が必要です。

熱負荷の構成要素

外皮負荷(外壁・屋根・窓)

建物外皮を通じた熱の侵入・損失は、熱負荷の大きな割合を占めます。外壁・屋根は貫流熱負荷(U値×面積×温度差)で算出し、窓面はガラスの貫流熱と日射取得熱の両方を考慮します。日射取得熱は、ガラスの日射熱取得率(η値・SHGC)×日射量×面積で求め、方位ごとの日射量と時刻別変動を反映させるのが詳細計算の基本です。外壁・屋根のU値は省エネ基準のPAL*やBEI計算と直結するため、建築側の外皮性能(断熱仕様)が決まる時点で設備側にも共有してもらうと、設計初期の負荷計算精度が大きく上がります。

近年は、高性能Low-Eガラス、外付けブラインド、可動ルーバー、グリーンファサードなどによる日射制御が省エネ設計の中心テーマで、これらの採用有無で外皮負荷は1.5〜2倍違ってくることもあります。日射制御の方針は外皮負荷だけでなく、ペリメーターゾーニングの幅やインテリア負荷との比率にも直結するため、意匠との早期協議が重要です。

内部発熱負荷

室内で発生する熱は、人体発熱・照明発熱・OA機器発熱の3つが主要因子です。一般オフィスの場合、在室密度0.1〜0.2人/㎡、照明負荷10〜20W/㎡(LED化が進んだ近年は10W/㎡前後が標準)、OA機器15〜30W/㎡が一般的な想定値です。人体発熱は顕熱と潜熱に分けて考え、事務作業時で顕熱60W/人・潜熱50W/人前後を目安とします。サーバールーム・スタジオ・厨房・実験室などの特殊用途は、機器リストから個別に積み上げるのが原則で、特にサーバールームではラック1基あたり数kW〜十数kWの発熱を見込む必要があります。

実務的に見落としがちなのが、内部発熱の同時使用率です。人体発熱は出社率・在席率、照明は人感センサー・昼光連動制御、OA機器は実利用率(カタログ消費電力ではなく実測値)と、それぞれ低減係数をかけて算出するのが本来の姿です。設計段階で各係数を文書化しておくと、運用フェーズで実測値と乖離した際に原因を追えます。

外気負荷

換気のために導入する外気の処理に必要な負荷で、外気と室内のエンタルピー差から計算します。日本の夏季は高温多湿のため潜熱(除湿に必要な熱量)の比率が大きく、冷房負荷全体の30〜40%を外気負荷が占めるケースもあります。冬季も加湿を伴う場合は潜熱負荷が無視できません。全熱交換器を導入する場合は、その温度交換効率と全熱交換効率(一般に静止形で55〜70%程度)を考慮して外気負荷を低減しますが、フィルター目詰まり時の効率低下も見込んだうえで残負荷を空調機・外調機側で処理する計画とします。

すきま風負荷

建物の気密性能によって侵入する外気による負荷です。近年の建物は気密性能が向上しているため割合は減少傾向にありますが、エントランスや搬入口、自動ドアなど開口部が多い部分では無視できない量になることがあります。商業施設の入口や駐車場直結の搬入扉では、エアカーテンや風除室の設計とセットで検討するのが基本です。

概算手法による熱負荷計算の5ステップ

ステップ1:設計条件の設定

まず、外気条件と室内条件を設定します。外気条件は建物所在地の設計用気象データ(TAC2.5%値が一般的、より厳しい設計をする場合は1.0%値)を使用し、近年は拡張アメダス気象データを参照するのが一般的です。東京の場合、冷房設計外気条件は乾球温度34℃前後・湿球温度27℃前後、暖房は乾球温度1〜2℃・相対湿度40%前後が標準です。室内条件はオフィスの場合、冷房時26℃・50%RH、暖房時22℃・40%RHが標準的な設定値ですが、用途や顧客要望(ZEB志向のオフィスでは冷房28℃・暖房20℃のクールビズ/ウォームビズ条件を採用するなど)によって調整します。

ステップ2:外皮負荷の概算

初期検討段階では、建物の外皮面積と窓面積比(WWR)から概算の外皮負荷を算出します。一般的なオフィスビルの外皮負荷は床面積あたり30〜80W/㎡程度で、WWRが大きいカーテンウォールビルでは上限側、コンクリート打ち放しの外壁が多い建物では下限側になります。建築側で外皮性能(U値・η値)が固まっていれば、PAL*計算の値を流用すると初期検討の精度が高まります。窓の方位別配置と日射制御方式(庇・ブラインド・Low-Eガラス)も、この段階でヒアリングしておきます。

ステップ3:内部発熱負荷の概算

用途別の単位面積あたり内部発熱量の目安値を使います。一般オフィスの場合、人体発熱は在室密度0.15人/㎡×顕熱60W/人=9W/㎡、照明はLEDで10〜15W/㎡、OA機器は20W/㎡として合計40〜50W/㎡程度です。飲食店舗は在室密度が高く厨房発熱もあるため70〜100W/㎡、病院の病室は逆に低く20〜30W/㎡程度、ホテル客室は内部発熱が小さく10〜20W/㎡程度が目安です。サーバールームやデータホールは、ラック発熱を機器表から積み上げるのが原則で、目安値は使えません。

ステップ4:外気負荷の概算

外気量は建築基準法の必要換気量(居室は1人あたり20㎥/h以上)とビル管理法のCO2濃度1,000ppm以下を基本とし、オフィスの場合は25〜30㎥/h・人が標準的です。外気負荷は、外気量×空気密度×(外気エンタルピー-室内エンタルピー)で計算します。東京の夏季設計条件では、外気1㎥/hあたり約15〜20Wの冷房負荷となるのが目安です。全熱交換器を採用する場合は、温度交換効率と全熱交換効率を反映して負荷を低減しますが、CO2デマンド換気を併用する場合は時刻別の外気量変動も加味します。

ステップ5:合計と安全率の設定

外皮負荷+内部発熱負荷+外気負荷+すきま風負荷を合計し、安全率を乗じます。概算段階での安全率は一般に1.1〜1.2(10〜20%)を見込みますが、建物用途・気象条件・運用条件の不確実性に応じて調整します。注意したいのは、各負荷要素ごとに既に安全側の係数を入れているケースで、最終合計にさらに安全率を重ねると過大設計につながるため、安全率は最終合計に対して一回だけ適用するのが原則です。安全率の根拠(在室密度の不確定性、機器発熱の見込み、将来増設対応など)を文書化しておくと、後工程の合意形成や運用フェーズの検証で役立ちます。

用途別の概算負荷目安値

初期検討でよく使われる用途別の空調負荷概算値(床面積あたりW/㎡)の目安は次のとおりです。一般オフィス(基準階)は冷房100〜170W/㎡・暖房60〜100W/㎡、商業施設(物販)は冷房150〜250W/㎡・暖房80〜120W/㎡、ホテル客室は冷房80〜130W/㎡・暖房60〜90W/㎡、病院(病室)は冷房80〜120W/㎡・暖房70〜100W/㎡、飲食店舗は冷房200〜350W/㎡・暖房100〜150W/㎡、教室は冷房120〜180W/㎡・暖房80〜120W/㎡が一般的です。実際の負荷は建物の形状・外皮性能・使われ方によって大きく変動するため、あくまで初動の目安として用い、基本設計以降は詳細計算で確認します。

なお、これらの目安値は2010年代までの一般的な仕様を前提にしたものが多く、ZEB志向の高性能外皮・LED照明・高効率OA機器を前提とした建物では下限値、もしくはそれ以下になるケースも増えています。逆にデータホールやサーバールームを併設する用途複合ビルでは、従来の目安値では足りなくなる傾向があり、用途ごとの個別積み上げが不可欠です。

詳細計算(動的シミュレーション)への移行と精緻化のポイント

概算計算は基本計画段階での方針決定に活用しますが、基本設計以降は時刻別の動的熱負荷シミュレーションに進む必要があります。HASP/ACSS、BEST、LCEM、TRNSYSといったツールを用いて、年間8,760時間の気象データに対する負荷変動を計算し、ピーク負荷だけでなく年間運転特性まで把握できます。とくにZEB認証や省エネ基準計算と連動させる案件では、動的シミュレーションが事実上必須です。

詳細計算で精緻化するポイントはいくつかあります。第一に、躯体蓄熱効果の考慮です。概算計算では定常状態を仮定しますが、実際にはRC造の建物では躯体の蓄熱により冷房ピーク負荷が20〜30%程度低減されます。第二に、ゾーニングの精緻化で、ペリメーターゾーンとインテリアゾーン、方位別の区分で時刻別ピーク負荷を算出します。第三に、同時使用率の考慮で、ビル全体の熱源容量は各室ピーク負荷の合計から同時使用率(オフィスで0.7〜0.85程度)を乗じて低減できます。第四に、立ち上がり(予熱・予冷)負荷の計上で、朝一の起動時には定常時より大きな能力が必要になるため、ウォームアップ係数(1.2〜1.5程度)を適用するか、起動時刻と運転スケジュールを工夫した制御を併用するかの判断を行います。

もうひとつ、顕熱比(SHF:Sensible Heat Factor)の確認も重要です。総負荷に占める顕熱の割合で、空調機の冷却コイル選定や除湿能力の設定に直結します。高湿外気が多い夏季や、人体発熱の潜熱比率が高い高密度用途では、SHFが0.6〜0.7程度まで下がることがあり、顕熱処理しか想定していない機種では除湿不足になるため、コイル仕様や外調機との役割分担を明確にしておきます。

よくある失敗と対策

もっとも多いのが過大設計の積み重ねです。各負荷要素にすでに安全側の係数を入れたうえで、最終合計にも安全率を重ね、さらに機器選定段階で「カタログ能力の8掛け」のような余裕を入れていくと、最終的に必要量の1.5〜2倍の能力が選定されてしまいます。安全率は段階ごとに整理し、何にどれだけ余裕を見ているかを設計書で明示しておくと、過大設計を避けられます。

潜熱負荷の見落としもよく見られる失敗です。とくに外気負荷と人体発熱の潜熱成分は見落としやすく、冷房時の除湿能力が不足すると室内湿度が上昇して、体感温度の悪化、結露、カビ発生といったトラブルにつながります。SHFを早めに確認し、必要であれば外調機やデシカント空調を組み合わせる判断をします。

暖房負荷の軽視も注意が必要です。冷房負荷に比べて暖房負荷の検討が不十分なケースが見受けられますが、ペリメーターゾーンの暖房負荷や、朝の予熱時の立ち上がり負荷は冷房ピークに匹敵する大きさになることがあります。とくに、夜間と早朝の最低気温時に建物が冷え切った状態からの起動では、定常時の1.5倍以上の能力が必要になることもあるため、起動時刻の繰り上げ・ナイトセットバック・予熱モード制御を組み合わせて対応します。

最後に、用途変更・将来増設への対応不足です。設計時点の在室密度・機器発熱で計算した結果のまま機器選定すると、テナント変更や機器増設で容量不足に陥るリスクがあります。建物の用途特性とライフサイクルを踏まえた将来余裕(10〜20%程度)の見込み方を、建主と早期に合意しておきましょう。

まとめ

熱負荷計算は空調設備設計の出発点であり、その精度が設計全体の品質を決定づけます。基本計画段階では概算手法を活用して迅速に方針を立て、基本設計以降は動的シミュレーションによる詳細計算に移行する二段構えが実務的です。外皮負荷・内部発熱・外気負荷・すきま風負荷の構成要素を理解したうえで、5ステップの概算手順で初期検討を進め、詳細計算では躯体蓄熱・ゾーニング・同時使用率・立ち上がり負荷・顕熱比といった精緻化ポイントを押さえます。過大設計を避けつつ安全側の計画を保つバランス感覚と、安全率の根拠を文書化する習慣が、長期に評価される空調設計につながります。当ポータルの熱負荷概算シミュレーションツールでは、建物の基本情報を入力するだけで冷暖房負荷の概算値が算出できますので、ぜひご活用ください。

監修者

長谷川一夫

機械設備設計部

パラダイム部長