なぜ電気設備設計で同じ失敗が繰り返されるのか
電気設備設計は、建築基準法・消防法・電気設備技術基準・内線規程など多くの法規・基準が関わり、意匠設計や他設備との調整も多い分野です。そのため、経験者であっても同じような失敗を繰り返すケースが少なくありません。
本記事では、実務でよく発生する電気設備設計の「あるある失敗」を8つ厳選し、それぞれの原因・影響・具体的な対策をセットで解説します。設計の各段階でのチェックリストとしてご活用ください。
失敗1:変圧器容量の過大設計
原因と影響
需要率を保守的に設定しすぎたり、将来増設分を過度に見込んだりすることで、変圧器容量が実際の最大需要電力に対して大幅に過大になるケースです。過大な変圧器は以下の問題を引き起こします。
- 電気室スペースが不必要に拡大し、有効面積が減少する
- 変圧器の無負荷損(鉄損)の割合が大きくなり、電力損失が増加する
- 設備費用が増大し、施主の信頼を損なう
対策
- 類似用途・規模の建物の実績需要率データを参考に、根拠のある需要率を設定する
- 将来増設分は変圧器容量ではなく電気室スペースの余裕で対応する(増設用トランススペースを確保)
- 変圧器負荷率が40〜60%程度に収まっているか確認する
失敗2:電圧降下の検証不足
原因と影響
許容電流だけでケーブルサイズを選定し、電圧降下の検証を行わないまま設計を進めるケースです。特にEPS(電気シャフト)から遠い位置にある分電盤や、高層建物の最上階で問題が顕在化します。電圧降下が内線規程の許容値(幹線3%以内、末端5%以内)を超えると、照明のちらつき、モーターのトルク低下、精密機器の誤動作などが発生します。
対策
- ケーブルサイズ選定時に必ず電圧降下計算を実施し、許容値以内であることを確認する
- 最遠端の分電盤だけでなく、全ルートの電圧降下をシステマティックに検証する
- 許容値を超える場合は、ケーブルサイズ拡大・EPSの位置変更・給電電圧の昇圧を検討する
失敗3:コンセント口数の不足
原因と影響
電気設備設計に対する最も多いクレームのひとつがコンセント口数の不足です。設計時に想定した使用台数と実際の使用台数の乖離や、スマートフォン・タブレットの充電需要の増加、テレワーク環境への対応不足が原因です。不足すると延長コード・タコ足配線が乱用され、過負荷による発熱・トラッキング火災のリスクが高まります。
対策
- オフィスの場合、1人あたり3〜4口(PC+モニタ+充電器+予備)を目安にコンセント口数を計画する
- 会議室はテーブルタップ付きフロアコンセントを設置し、レイアウト変更にも柔軟に対応できるようにする
- EV充電用コンセント(200V)の将来設置スペースと回路を事前に計画する
失敗4:電気室スペースの不足
原因と影響
意匠設計との調整不足により、電気室が必要最小限のスペースで計画され、将来の増設余裕がない状態になるケースです。テナント変更によるEV充電設備の追加、サーバー室の新設、空調機器の増設などに伴う電力需要の増加に対応できず、大規模な改修が必要になることがあります。
対策
- 電気室には20〜30%の増設余裕スペースを確保し、意匠設計者と基本計画段階で合意する
- 機器の搬入経路(搬入口サイズ・廊下幅・エレベーター制限)を事前に確認する
- 電気室の換気・空調計画を行い、機器の発熱処理を確保する
失敗5:EPS位置の不適切な計画
原因と影響
EPS(電気シャフト)の位置が建物の端部に設定されると、反対側への幹線ケーブルが長くなり、電圧降下の増大・ケーブルコストの上昇・EPSスペースの拡大を招きます。また、EPSが階ごとに異なる位置にあると、縦の幹線ルートが確保できず施工が困難になります。
対策
- EPSは建物の負荷中心付近に配置し、各分電盤への配線長を最小化する
- 大規模建物では複数のEPSを設置し、給電エリアを分割して電圧降下を抑える
- 基本計画段階で意匠設計者・構造設計者とEPSの位置・サイズを確定させる
失敗6:非常用発電機の容量不足
原因と影響
非常用発電機の容量算定で、消防法で定められた法定負荷(消火ポンプ・排煙ファン・非常用エレベーター等)のみを対象とし、BCP負荷(業務継続に必要な負荷)の検討が不十分なケースです。近年はBCP意識の高まりから、法定負荷に加えてサーバー室・通信設備・最低限の照明・空調の非常用電源確保が求められるケースが増えています。竣工後にBCP負荷を追加しようとしても、発電機の入替が必要となり大きなコストが発生します。
対策
- 法定負荷とBCP負荷を明確に区分してリストアップし、施主とBCPレベルを合意した上で容量を算定する
- モーター負荷の始動電流(定格の5〜7倍)を考慮した始動容量の算定を行う
- 消防法の非常電源の運転時間要件(30分〜60分以上)と建基法の要件(30分以上)の両方を満たしているか確認する
失敗7:接地抵抗値の未確認
原因と影響
敷地の土壌条件(土質・地下水位)を確認せずに接地設計を行うケースです。岩盤地盤や砂礫地盤では土壌の固有抵抗が高く、標準的な接地工事では電気設備技術基準で定められた接地抵抗値(A種:10Ω以下、B種:計算値、C種:10Ω以下、D種:100Ω以下)を確保できないことがあります。施工段階で判明すると、追加の接地極打設や接地抵抗低減材の使用が必要となり、コストと工期に影響します。
対策
- 設計段階で地質調査報告書から土壌の固有抵抗を確認し、必要な接地極の本数・長さを算定する
- 固有抵抗が高い地盤の場合は、接地抵抗低減材や深打ち接地極、メッシュ接地などの対策を設計に織り込む
- 統合接地方式の採用可否を検討する
失敗8:高調波対策の未検討
原因と影響
近年、インバーター制御の空調機・LED照明・UPS・EV充電器など、高調波を発生する機器が増加しています。高調波電流が増大すると、変圧器の過熱・力率の悪化・コンデンサの過負荷・精密機器の誤動作などの問題が発生します。高圧受電の場合、「高圧又は特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドライン」に基づく高調波の流出電流計算が必要です。
対策
- 設計段階で高調波発生機器のリストアップと等価容量の算出を行い、ガイドラインの上限値以内であることを確認する
- 上限値を超える場合は、アクティブフィルタやリアクトルの設置を検討する
- 変圧器にはK値定格品の採用を検討し、高調波による過熱対策を講じる
失敗を防ぐための設計段階別チェックリスト
上記8つの失敗を防ぐために、設計段階ごとにチェックすべきポイントを整理します。
基本計画段階
- 電力会社との受電協議を開始したか(受電方式・契約電力・引込位置の確定)
- 電気室・EPSの位置とサイズを意匠設計者と合意したか
- 施主とBCPレベル(非常用発電機の対象負荷範囲)を合意したか
基本設計段階
- 変圧器容量は実績データに基づく需要率で算定したか
- コンセント計画は使用者のニーズを反映しているか
- 非常用発電機の法定負荷+BCP負荷のリストアップは完了したか
- 地質調査報告書から土壌の固有抵抗を確認したか
実施設計段階
- 全ルートの電圧降下計算を実施し、許容値以内であることを確認したか
- 高調波の等価容量計算を実施し、ガイドライン上限値以内であることを確認したか
- 接地設計は土壌条件を踏まえた接地極の仕様を明記しているか
- 分電盤の予備回路スペースは30%程度確保されているか
まとめ
電気設備設計の「あるある失敗」8選として、変圧器の過大設計・電圧降下の検証不足・コンセント不足・電気室スペース不足・EPS位置の不適切・非常用発電機の容量不足・接地抵抗値の未確認・高調波対策の未検討を解説しました。
これらの失敗に共通するのは、設計初期段階での確認不足と将来変化への備えの不足です。本記事の設計段階別チェックリストを活用し、漏れのない電気設備設計を実現してください。各項目の詳細な解説は、本ポータルの関連記事をご参照ください。



