非常用発電設備の容量は、負荷のkWを合計するだけでは決まりません。定常時のkW・kVA、電動機の始動時、非線形負荷、必要な運転時間を分けて検討し、すべての条件を満たす機種を選びます。
本記事では、負荷一覧から候補容量を絞る計算と、始動順序・燃料量の確認を例示します。数値は手順を理解するための仮定であり、個別物件の法令判定やメーカーの容量計算を代替するものではありません。
最初に、法令上の非常負荷とBCP負荷を分ける
消防用設備、建築設備、事業継続用の負荷では、電源に求める条件が異なります。「非常用だからすべて発電機」「すべて同じ時間運転」とせず、設備ごとに根拠と要求性能を整理します。
区分 | 負荷の例 | 先に決める事項 |
|---|---|---|
消防用設備等 | 消火ポンプなど | 設備ごとの非常電源の種類、容量、運転時間、起動条件 |
建築基準法関係の設備 | 非常用照明、排煙設備、非常用エレベーターなど | 各設備の予備電源等の規定、供給範囲、切替条件 |
BCP・保安・業務用 | 通信機器、サーバー、必要な空調など | 許容停止時間、残す業務、運転時間、負荷遮断の優先順位 |
火災時と一般停電時で運転する機器が変わる場合は、運転ケースを別表にします。BCP負荷を追加する際も、必要な防災負荷への給電が維持される制御を確認してください。消防用設備に供給する自家発電設備の構造・性能は、消防庁「自家発電設備の基準」を確認し、負荷側の適用規定と併せて整理します。
容量計算に使う負荷一覧の作り方
一覧には、機器名・台数だけでなく、電気入力、力率、始動方式、同時運転条件を記録します。電動機の軸出力と電気入力を取り違えると、発電機から供給する電力を過小評価します。
入力項目 | 確認する内容 |
|---|---|
運転時の電気入力P[kW] | 機器仕様書の入力値。軸出力だけの場合は効率を用いて入力へ換算する |
運転時の力率PF | 機器の実条件に対応する値。すべて一律0.8としない |
始動・投入データ | 始動電流、始動力率、加速時間、始動方式、UPS等の投入特性 |
運転シナリオ | 同時運転、予備機、始動順序、火災時の連動、負荷遮断 |
時間・電源条件 | 必要運転時間、電圧、相数、周波数、許容電圧・周波数変動 |
電気入力からの概算はS[kVA]=P[kW]÷PFです。三相平衡負荷で電流が分かる場合は、S=√3×線間電圧[V]×線電流[A]÷1,000を使います。非線形負荷では、変位力率だけでなく高調波を含む実効電流と総合力率を確認します。
計算例1:定常負荷90kWから候補を絞る
計算説明用に、次の4負荷が同時に連続運転すると仮定します。電動機の数値は軸出力ではなく電気入力です。需要率による低減は行いません。
負荷 | 電気入力P | 力率PF | P÷PF |
|---|---|---|---|
ポンプ用電動機 | 36kW | 0.80 | 45kVA |
ファン用電動機 | 24kW | 0.80 | 30kVA |
照明・制御 | 12kW | 1.00 | 12kVA |
業務継続用負荷 | 18kW | 0.90 | 20kVA |
合計 | 90kW | ― | 107kVA |
ここでは各負荷のkVAを単純加算し、候補を絞るための保守的な目安にしています。力率が異なる負荷の厳密な合成や、相不平衡・高調波の評価とは分けて扱います。
仮に125kVA・100kWの発電機を候補にすると、定常時は90≦100kW、107≦125kVAとなります。ただし、これは「定常負荷の一次確認を通過した」という意味です。始動時の検討を終えるまで、125kVAで足りるとは確定できません。
候補機は、周波数、普通形・長時間形などの定格区分、設置環境に対応した出力を確認します。同じ製品群でも定格区分で出力が異なる例は、ヤンマーの非常用発電システム仕様表で確認できます。上記の125kVAは説明用の候補で、同製品の選定結果ではありません。
計算例2:電動機の始動順序を比較する
前例のポンプとファンについて、始動電流が運転電流の6倍と仮定します。6倍は今回の例の条件であり、すべての電動機に適用する係数ではありません。照明・制御を先に投入し、業務継続用負荷は電動機の始動完了後に投入するものとします。
投入場面 | 比較用の単純計算 | 合計 |
|---|---|---|
照明・制御の後、ポンプを始動 | 12+45×6 | 282kVA |
ポンプ安定後、ファンを始動 | 12+45+30×6 | 237kVA |
ポンプとファンを同時始動 | 12+45×6+30×6 | 462kVA |
すべての投入・始動が完了 | 12+45+30+20 | 107kVA |
この表は、始動順序による負荷の違いを把握するための簡略比較です。282kVAをそのまま発電機の必要定格と読み替えてはいけません。実際の容量は、発電機の特性、原動機の負荷投入能力、始動力率、電圧降下中の電流・トルク、加速時間などを用いて検討します。
メーカーには負荷一覧と投入時系列を渡し、瞬時電圧降下・周波数変動が機器の許容範囲に収まり、電動機が始動を完了できるか確認します。容量を小さくする目的だけで、防災設備に必要な起動を遅らせることはできません。
最終容量を決めるときの確認項目
- 定常出力:各運転ケースでkW・kVAの双方を満たすか。補機の電力や将来増設分も根拠を残す。
- 始動・投入:最大電動機だけでなく、既に運転中の負荷を含めて時系列で確認したか。
- 非線形負荷:UPS、インバーター、LED電源などの高調波・突入電流・発電機との適合を確認したか。
- 相不平衡:単相負荷の配分を確認し、合計容量だけで判断していないか。
- 定格・環境:必要運転時間、周囲温度、標高、吸排気条件に合う出力か。
- 電源切替:無電圧時間を許容できない機器には、UPS等を含む給電方式を検討したか。
「最後に一律20%を加える」といった余裕率だけでは、始動や高調波の問題は解決しません。増設余裕、設計上の余裕、環境による出力補正を別項目として残すと、選定理由を説明しやすくなります。
計算例3:運転時間と燃料消費量から必要量を求める
液体燃料の消費量は、候補機の負荷別燃料消費量[L/h]と運転時間から計算します。次は独立した燃料計算の例で、前述の125kVA候補の実機性能を示すものではありません。
運転区間 | 仮定する消費量 | 時間 | 燃料消費量 |
|---|---|---|---|
初期の運転 | 25L/h | 3時間 | 75L |
必要業務に絞った運転 | 18L/h | 21時間 | 378L |
合計 | ― | 24時間 | 453L |
燃料消費量=Σ(区間ごとの消費量×運転時間)=453Lです。24時間は計画上の仮定で、すべての建物に共通する法定時間ではありません。また、防災用の法定備蓄等の算定条件を、BCPの低負荷運転の想定で置き換えないようにします。
453Lは運転で消費する計算量であり、そのままタンクの呼称容量にはできません。吸い出せない残量、必要な余裕、試運転分、メーカー仕様、適用規定を確認し、実際に使用できる燃料量を確保します。小出槽と主タンクを分ける場合は、移送ポンプや制御電源、補給経路も確認します。
燃料備蓄の時間は、施設の用途や継続する業務から設定します。官庁施設向けの参考として、国土交通省「建築設備設計基準 令和6年版」も、施設場所・用途・業務内容等を踏まえる考え方を示しています。
容量と一緒に決める設置・維持管理条件
容量が足りても、浸水で停止したり、冷却空気が不足したりすれば給電を継続できません。設置位置、吸排気経路、排気管、騒音・振動、燃料の保管条件、保守空間、機器の搬出入経路を併せて計画します。
燃料は機種が指定するものを選びます。「ガスタービン」という原動機の名称と、都市ガス等の燃料の種類は別です。液体燃料の備蓄、都市ガスの供給継続性、LPG等の容器・貯槽は、それぞれの方式に応じて検討します。
点検時に確認する負荷運転の方法、始動用蓄電池、燃料の品質管理、停電時の補給体制まで、運用担当者へ引き継げる資料にまとめます。
設計図書に残すチェックリスト
- 負荷ごとの法令上の位置付け・要求運転時間・根拠資料がある。
- 火災時、一般停電時、BCP運転時の負荷一覧が整理されている。
- 電気入力と軸出力を区別し、力率・始動データの出典がある。
- 定常kW・kVA、投入順序、瞬時変動、相不平衡、高調波の検討結果がある。
- 候補機の定格区分と、採用容量を決めた支配条件が分かる。
- 燃料消費量と使用可能量を分け、タンク・移送・補給条件を確認している。
- 切替・負荷遮断・復電時の動作と、維持管理方法が図面・仕様書で整合している。
関連する設計実務
負荷の供給範囲と切替構成は単線結線図の読み方、UPSやインバーター負荷の確認は高調波対策、消防用設備の設置判定は消防設備の設置基準も参照してください。
出典確認日:2026年9月16日。数値例の入力値は仮定です。適用法令・告示、所轄の審査基準、採用機器の仕様は案件ごとに確認してください。
監修者
猪狩理
設備設計士
パラダイム部長



