高調波とは、基本周波数の整数倍の周波数を持つ成分です。電気設備で扱う商用電源が50Hzなら、第3次は150Hz、第5次は250Hzになります。非線形負荷がひずんだ電流を流すと、系統のインピーダンスを介して電圧波形にも影響します。
設計では、建物内の機器への影響と、受電点から外部系統へ流出する電流を分けて検討します。この記事では発生原因、対策工法、等価容量と高調波流出電流の判定を、記入例とともに整理します。
高調波はなぜ発生するのか
抵抗負荷の電流が電圧と同じような波形になるのに対し、整流回路などは電圧の一部の区間に電流を集中して引き込みます。そのひずみ波を、基本波と複数の高調波に分けて考えます。参考:日本電気技術者協会「電圧・電流波形のいろいろ(2)」
次数 | 50Hz系統 | 60Hz系統 |
|---|---|---|
基本波 | 50Hz | 60Hz |
第3次 | 150Hz | 180Hz |
第5次 | 250Hz | 300Hz |
第7次 | 350Hz | 420Hz |
波形の考え方は「基本波+第3次+第5次+…=実際の波形」です。各成分の大きさと位相が異なれば、同じ総合ひずみ率でも波形は異なります。次数別の評価に、総合ひずみ率の数値をそのまま代用しないようにします。
設備名称だけで発生量を決めない
インバーター空調機、ポンプ用インバーター、UPS、LED電源、充電設備などを洗い出します。ただし発生量は整流方式、リアクトル、補償回路、負荷率等で変わります。「空調が必ず最大」「LEDだから対策が必要」と決めつけず、採用品の資料で確認してください。
主な影響と確認する場所
懸念 | 確認する内容 |
|---|---|
変圧器・導体の発熱 | 実効電流、次数別成分、負荷条件と温度上昇 |
コンデンサ・リアクトルへの負担 | 系統との共振、流入する高調波、機器の許容条件 |
制御機器への影響 | 電圧波形、発生時刻、機器動作との対応 |
中性線の電流 | 系統方式、負荷の偏り、第3次等の成分 |
外部系統への流出 | 受電点の次数別電流とガイドライン上限値 |
高調波によるトラブルでは、発生機器だけでなく、系統構成や進相コンデンサの運転状態も調査対象になります。参考:日本電気技術者協会「高調波対策の考え方・検討経緯・留意事項」
第3次高調波と中性線:三相4線式での注意
三相4線式の相-中性線間に同種の単相非線形負荷を接続した場合、第3次などの成分は中性線で相殺されず、加算されることがあります。各相の第3次成分が同位相で10Aなら、中性線の第3次成分は30Aになる、という考え方です。これは基本波等を含む中性線実効電流そのものを30Aと断定する例ではありません。出典:Schneider Electric「A high 3rd harmonic current can cause a high neutral current」
この説明を単相3線式へそのまま転用したり、中性線電流を一律に相線電流の√3倍と置いたりしません。系統と負荷の波形を確認して、導体の許容電流・保護方法を検討します。
ガイドラインの確認は2段階で進める
高圧・特別高圧需要家で高調波発生機器を新設・増設・更新する場合などは、該当する一般送配電事業者の手続きと計算書を確認します。東京電力パワーグリッドでは、計算書の提出と、流出電流が上限を超える場合の対策を案内しています。出典:東京電力パワーグリッド「高調波流出電流計算書の提出」
第1段階:等価容量の合計を確認する
等価容量P0は、対象機器の定格容量Piに回路種別の換算係数Kiを乗じて合計します。基本形はP0=Σ(Ki×Pi)です。Piの取り方は機器資料で確認し、モーターの軸出力kWを無条件に入力kVAとして使わないでください。参考:三菱電機「高調波抑制ガイドラインに関わる定格容量」
受電電圧 | 等価容量の限度値 |
|---|---|
6.6kV | 50kVA |
22/33kV | 300kVA |
66kV以上 | 2,000kVA |
この段階は受電電圧に対応する等価容量との比較です。契約電力に係数を掛ける次数別電流の上限計算とは区別します。限度値を超えたことだけで、フィルタの設置を確定するわけではありません。適用する判定フローに沿って次段階へ進みます。出典:三菱電機「高調波対策機器」第2章
等価容量の計算例
以下は算式を説明する架空の条件です。係数は特定製品の推奨値ではなく、実案件では採用品の回路分類と資料で確定してください。
機器群 | 合計定格容量Pi | 換算係数Ki(仮定) | Ki×Pi |
|---|---|---|---|
A | 40kVA | 1.0 | 40kVA |
B | 60kVA | 0.5 | 30kVA |
合計 | 100kVA | — | 70kVA |
6.6kV受電なら70kVAは50kVAを超えます。ここで得られる結論は、適用フローに沿った追加検討が必要ということです。「20kVA超過したので20kVAのフィルタ」とは選定できません。
第2段階:次数別の流出電流を比較する
機器の次数別発生電流、台数、最大稼働率、適用できる補正や低減効果などを、指定された計算方法で集計します。上限値は受電電圧・次数ごとの係数と契約電力から求めます。メーカー値が1台当たりか、受電電圧換算済みか、AかmAかを確認してください。
例として、6.6kV・契約電力500kWの第5次上限を3.5mA/kWで計算すると、1,750mA=1.75Aです。計算済み流出電流を仮に2.20Aとすれば0.45A超過するため、この次数の低減検討が必要です。他の次数も別々に確認します。この差は、そのまま購入するフィルタの定格電流を示しません。参考:三菱電機「高調波対策機器」表2-2
対策工法は目的で使い分ける
工法 | 主な目的 | 選定時の確認 |
|---|---|---|
入力リアクトル・直流リアクトル | 発生機器側で電流波形を改善する | 採用回路と係数・発生率、電圧降下 |
低高調波変換装置・多パルス化 | 発生量を抑える | 適用機器、電源条件、負荷率別性能 |
アクティブフィルタ | 補償電流で高調波を低減する | 対象次数、負荷変動、検出位置、容量と制御範囲 |
同調型のパッシブフィルタ | 所定の次数に対する低減経路を設ける | 共振、系統変化、他系統からの流入 |
変圧器・中性線の熱的設計 | 高調波がある状態での発熱に対応する | 波形・負荷に対する定格と許容電流 |
進相コンデンサの直列リアクトルと、特定次数を吸収する同調フィルタを同一視しないでください。また、高調波に耐える変圧器や導体を選ぶことは、流出電流を減らす対策とは目的が異なります。用途名だけでK値や工法を固定せず、メーカーへ計算条件を提示して確認します。参考:日本電気技術者協会の対策・留意事項
設計と引渡しのチェックリスト
- 機器一覧に、型式、回路分類、定格容量、係数、次数別データの出典を記入した。
- 等価容量の判定と、次数別流出電流の判定を別の欄にした。
- 最大稼働率や補正係数の適用根拠を残し、同じ低減効果を重複計上していない。
- 対策後の計算条件を、発注するリアクトル・フィルタ・機器仕様に反映した。
- 中性線は系統方式と負荷に基づいて検討し、実効電流・温度を確認する計画にした。
- 竣工測定では、測定点、負荷運転状態、コンデンサ・フィルタの状態を記録する。
- 将来の空調・UPS・充電設備の増設時に再計算する担当と資料保存先を決めた。
受電点や対策機器の接続関係は単線結線図にまとめます。非常用発電機運転時も使う負荷については、商用系統とは電源条件が変わるため、発電設備の容量・負荷投入条件と合わせて確認してください。
監修者
猪狩理
設備設計士
パラダイム部長



