照明設計の役割と評価軸
照明設計は、室内の視環境を確保し、快適な居住環境と省エネを両立させるための重要な設計プロセスです。JIS Z 9110(照明基準総則)では建物用途・室用途ごとに推奨照度(維持照度)が定められ、建築物省エネ法では一次エネルギー消費量計算で照明設備の効率と制御方式が評価されます。なお非常用照明(建築基準法)と誘導灯(消防法)はそれぞれ別系統の規定であり、本記事は一般照明(常時使用する全般照明)の設計を対象とします。以下では、照度基準の読み方、光束法による灯数計算、LED照明の設計ポイント、器具配置の実務までを順に整理します。
JIS照度基準と用途別の目安
維持照度と初期照度
JIS Z 9110は「維持照度」を推奨値として定義しており、これは器具の汚れやランプ光束減衰を経た使用期間中も維持すべき作業面照度の最低値です。設計照度は維持照度を確保できるよう、保守率を見込んで初期照度を設定します。LED器具の場合、保守率は0.7〜0.85程度が一般的で、高所設置や粉塵環境では下限側を採用します。
用途別の推奨照度
主な室用途の推奨照度は、一般事務室750lx、役員室750lx、会議室500lx、受付・ロビー300lx、廊下200lx、階段150lx、トイレ200lx、駐車場75lx、倉庫100lxなどです。VDT作業を伴う事務室では作業面照度500〜1,000lxの範囲で計画し、タスク・アンビエント方式(全般照明+手元照明)の採用も検討します。商業施設・医療施設・教育施設は同規格の別表に従い、用途特性に応じた照度を設定します。
光束法による灯数計算
計算式の基本
光束法の基本式は N=E×A÷(F×U×M)です。Nは必要灯数、Eは設計(維持)照度(lx)、Aは床面積(㎡)、Fは1台あたりの光束(lm)、Uは照明率、Mは保守率を意味します。器具のカタログに記載された光束と照明率表を用い、室の条件を当てはめて算出します。
室指数と照明率
照明率Uは、室の形状(広さ・高さ)、天井・壁・床の反射率、器具の配光特性によって決まります。室指数Krは Kr=X×Y÷(H×(X+Y))で算出し(X・Y:室の長辺・短辺、H:作業面から器具までの高さ)、これと反射率の組み合わせから器具メーカーの照明率表で読み取ります。一般的なオフィスでは照明率は0.5〜0.7程度です。
保守率の考え方
保守率Mは、ランプ光束減衰率と器具汚損率の積で求めます。LEDの光束減衰は蛍光灯より緩やかですが、レンズ・反射板の汚れが進行する環境(厨房・工場・地下駐車場など)では低めに見積もります。清掃周期や器具更新計画と合わせて、現実的な数値を設定するのが実務のポイントです。
LED照明の設計ポイント
色温度と演色性
LED器具では色温度(K)と演色性(Ra)を用途別に選定します。一般オフィスは4,000〜5,000Kの白色・昼白色を採用し、執務に適度な集中感を出します。レストラン・ホテルロビーなど落ち着いた空間は2,700〜3,500Kの電球色・温白色、商業ディスプレイや美術館では演色性Ra80以上(高品質はRa90以上)を選びます。色温度が混在すると空間の統一感が損なわれるため、室・ゾーンごとに統一を図ります。
グレア制御(UGR)
直接視野に入る器具のまぶしさ(グレア)はUGR(Unified Glare Rating)で評価し、オフィスはUGR≦19、一般作業はUGR≦22が目安です。バットウィング配光、ルーバー付き器具、間接照明の併用で抑制できます。VDT作業ではPCモニターへの映り込みも考慮し、低輝度パネル器具を選定します。
調光・センサー制御による省エネ
LEDは調光対応が容易で、複数の制御を組み合わせて省エネを実現します。窓側の明るさセンサーによる昼光連動制御(窓側列の照度を抑制)、人感センサーによる在室検知制御(不在時に減光・消灯)、タイマー・スケジュール制御(業務時間外の自動消灯)を組み合わせると、消費エネルギーを30〜50%削減できる事例が多く見られます。建築物省エネ法の一次エネ計算でも、これらの制御効果が評価対象になります。
器具配置の実務
器具間隔と壁距離の基本
均一な照度分布を得るため、器具間隔Sは取付高さHに対し S/H=1.0〜1.5程度を目安とします。壁からの距離は器具間隔の1/2程度(壁際に作業面がある場合は1/3)に近づけます。器具メーカーが指定する「最大設置間隔(S/H比)」を超えると、隅部の照度が確保できず暗がりが生じます。
意匠・他設備との調整
天井グリッド(システム天井のT-bar、JISモジュール)に合わせて器具を配列するのが基本です。空調吹出口・吸込口、スプリンクラーヘッド、煙感知器、スピーカー、点検口との干渉を避け、配置可能な範囲で照度均斉度を確保します。インテリアパース・天井伏図で意匠設計と整合させ、家具レイアウト変更の可能性も見越したグリッド計画とします。
照明設計の実務フロー
照明設計は次の流れで進めます。第1に、各室の用途・JIS推奨照度・特殊要求(VDT、医療・商業など)を整理します。第2に、設計照度・色温度・演色性・グレア要求を決定し、光源・器具タイプを絞り込みます。第3に、光束法で各室の必要灯数を算出します。第4に、天井伏図上で器具配置を計画し、他設備との干渉を解消します。第5に、調光・センサー・スケジュール制御の方式を決め、回路分けを分電盤計画と整合させます。第6に、建築物省エネ法のBEI計算と整合させ、図面・計算書・仕様書を整備します。
設計レビュー用チェックリスト
照明設計レビューで確認すべき項目を整理しました。
□ 各室のJIS推奨照度(維持照度)が確認され、設計照度として整理されているか
□ 保守率(LEDで0.7〜0.85目安)が室環境に合わせて設定されているか
□ 光束法による灯数計算が各室で実施され、計算書として残っているか
□ 室指数と照明率が器具メーカーデータから正しく読み取られているか
□ 色温度・演色性が用途に合わせて選定され、ゾーン内で統一されているか
□ オフィスのUGR≦19など、グレア基準を満たしているか
□ 調光・昼光連動・在室検知などの制御方式が省エネ要件と整合しているか
□ 器具間隔(S/H≦1.5)と壁距離(間隔の1/2程度)が確保され、照度均斉度が出ているか
□ 空調・スプリンクラー・感知器など他設備との干渉が解消されているか
□ 建築物省エネ法のBEI計算で照明設備効率と制御効果が評価されているか
□ 非常用照明(建基法)・誘導灯(消防法)が別途計画され、一般照明計画と整合しているか
まとめ
照明設計は、JIS照度基準を踏まえた設計照度の設定、光束法による灯数計算、LED光源の特性(色温度・演色性・グレア)の選定、器具配置と他設備との調整、省エネ制御の組み込みという流れで構成されます。各室の用途特性に応じて照度・色温度・演色性を整え、調光・センサー制御で省エネを実現することが現代の照明設計のポイントです。本記事のチェックリストを設計レビューに組み込み、視環境の質と省エネを両立する照明計画を実現してください。
監修者
猪狩理
設備設計士
パラダイム部長



