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弱電・情報通信設備の設計入門|LAN配線・MDF/IDF・無線AP・サーバー室の計画手順

弱電・情報通信設備の設計を体系的に解説。LAN配線規格(Cat6A)の選定、MDF・IDFの配置とスペース計画、無線アクセスポイントの配置目安、サーバー室の空調・電源・防災計画、よくある見落としポイントと設計チェックリストまで網羅。

弱電・情報通信設備の設計入門|LAN配線・MDF/IDF・無線AP・サーバー室の計画手順
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公開日
2026年4月5日
更新日
2026年4月6日

弱電・情報通信設備とは?設備設計者が知るべき全体像

弱電設備とは、信号の伝送を目的とした電気設備の総称です。電力を供給する「強電設備」と区別され、電話・LAN・TV共同受信・インターホン・セキュリティ(入退室管理・監視カメラ)・放送設備・ナースコールなどが含まれます。

近年、IoTやクラウドサービスの普及により、建物のネットワークインフラは事業継続の根幹をなす設備となっています。設備設計者は電力供給だけでなく、LAN配線・無線ネットワーク・サーバー室環境まで含めた総合的な情報通信インフラの計画が求められます。本記事では、弱電・情報通信設備の設計に必要な基本知識を体系的に解説します。

弱電設備の主な種類と設計のポイント

弱電設備は多岐にわたりますが、設計上特に重要なものを以下に整理します。

  • LAN配線設備:建物のネットワークインフラの中核。有線LANと無線LAN(Wi-Fi)の計画が含まれる
  • 電話設備:PBX(構内交換機)またはクラウドPBXを利用。近年はIP電話への移行が進んでおり、LAN配線と統合されるケースが増加
  • TV共同受信設備:地上波デジタル・BS/CS放送の受信。集合住宅やホテルではCATVへの対応も検討する
  • セキュリティ設備:入退室管理(ICカード・生体認証)、監視カメラ(IPカメラ)、防犯センサー。ネットワーク型が主流となりLAN配線との連携が不可欠
  • インターホン・ナースコール:集合住宅ではインターホン、病院ではナースコールが必須。専用配線またはIP化による統合を検討する
  • 放送設備:非常用放送(消防法)と業務用放送。非常用放送は消防設備として設置基準を満たす必要がある

LAN配線計画の設計手順

LAN配線は現代の弱電設備の中核であり、設計の良し悪しが建物の通信品質・拡張性・運用コストを大きく左右します。設計の基本手順を以下に解説します。

配線規格の選定

LAN配線の規格は用途と将来の拡張性を考慮して選定します。現在の主な選択肢は以下のとおりです。

  • Cat6A(推奨):10Gbps対応。現在の新築建物における標準的な選択肢。PoE++(IEEE 802.3bt、最大90W)にも対応し、IPカメラや無線APへの給電が可能
  • Cat6:1Gbps対応(短距離なら10Gbps)。コスト重視の場合に選択されるが、将来の帯域不足リスクがある
  • 光ファイバー:MDF〜IDF間のバックボーン回線に使用。シングルモード(長距離)とマルチモード(OM3/OM4、短距離で10G〜40G対応)がある

配線トポロジー:スター型配線の基本

構内LAN配線はスター型トポロジーが基本です。建物内の配線構成は以下の3階層で設計します。

  1. MDF(主配線盤):建物のネットワークの中心。外部回線(インターネット・電話)の引き込み点であり、コアスイッチを収容する。通常1階または地下1階に設置
  2. IDF(中間配線盤):各階に設置し、フロアスイッチを収容。MDF〜IDF間はバックボーン回線(光ファイバー)で接続する
  3. 情報コンセント(フロア配線):IDFから各室の情報コンセントまでメタルケーブル(Cat6A)で配線。1本の水平配線は最大90m以内(パッチコード含め100m以内)

情報コンセントの配置計画

情報コンセントの口数と配置は、建物の用途に応じて計画します。主な目安は以下のとおりです。

  • 一般オフィス:1席あたり2口(PC+IP電話/予備)。フリーアドレスの場合はグリッド間隔(3〜4m)で配置
  • 会議室:テーブルタップ付きフロアコンセントに4〜8口。Web会議用のディスプレイ接続やカメラ用PoEポートも考慮
  • ホテル客室:ベッドサイドとデスクに各1口。Wi-Fi主体の場合は有線を省略するケースも増えているが、AP用のLAN配線は必須
  • 病院:電子カルテ端末用に各診察室2〜4口。ナースステーションには集中的に8〜12口程度

MDF・IDFの配置とスペース計画

MDF・IDFの配置は、LAN配線設計の最も重要な初期決定事項のひとつです。設置場所の選定を誤ると、配線距離の超過・将来の拡張困難・運用時のメンテナンス性低下を招きます。

MDFの設計ポイント

  • 外部回線(通信事業者の光ファイバー等)の引き込みルートを確保できる位置に設置する(通常1階または地下1階)
  • 19インチラック2〜4架分のスペースと、前面1m・背面0.6m以上の作業スペースを確保する
  • 専用空調とUPS(無停電電源装置)用の電源回路を計画する
  • セキュリティ対策として入退室管理を設置する

IDFの設計ポイント

  • 各階のEPS内に弱電用スペースとして19インチラック1〜2架分を確保する
  • 大規模フロアでは水平配線が90mを超えないよう、複数のIDFを分散配置する
  • 強電ケーブルとの離隔距離(ノイズ対策)を確保する。同一ラック内での強電・弱電の混在は避け、ケーブルラック上でも15cm以上の離隔またはセパレータを設置する
  • スイッチングハブの発熱対策として換気または空調を確保する
  • PoE給電用にUPS付きの専用電源回路を設ける(停電時もネットワークを維持するため)

無線LAN(Wi-Fi)アクセスポイントの配置計画

無線LANは現在ほぼ全ての建物で必須のインフラとなっています。設備設計では、アクセスポイント(AP)へのLAN配線とPoE給電を計画する必要があります。

AP配置の目安

  • 一般オフィス:15〜20m間隔でAPを天井設置。1台あたり30〜50台程度の端末接続を想定
  • 会議室:大会議室(20名以上)には専用APを1台設置。同時接続台数の集中に対応するため
  • ホテル客室:2〜3室あたりAP1台。壁の構造(RC・軽鉄)による電波減衰を考慮して計画する
  • 倉庫・工場:金属棚や機械による電波反射・遮蔽を考慮し、サイトサーベイ(現地電波調査)の実施を推奨

設計上の注意点

  • AP設置位置にはCat6AのLANケーブルとPoE対応の電源を事前に配線しておく。後からAPを追加する場合の予備配線も計画する
  • Wi-Fi 6E(6GHz帯)やWi-Fi 7への対応を見据え、AP1台あたりのバックボーン帯域として10Gbps対応のCat6Aを推奨
  • 天井裏のAP設置位置は意匠設計者と調整し、天井の点検口からアクセスできる位置に配置する

サーバー室の環境計画

オンプレミスのサーバーを設置する場合、サーバー室の環境計画は設備設計の重要な要素です。クラウド移行が進んでいるとはいえ、中規模以上の建物ではサーバー室が依然として必要なケースが多くあります。

空調計画

  • 室温は22〜25℃に維持(ASHRAE推奨値)。湿度は40〜60%RHを目標とする
  • サーバーの発熱密度(kW/ラック)に応じた空調能力を算定する。一般的なラックあたり発熱量は3〜8kW程度
  • 24時間365日稼働のため、専用空調を冗長構成(N+1台)で計画する
  • ホットアイル・コールドアイル方式で気流を管理し、冷却効率を高める

電源・UPS計画

  • UPS(無停電電源装置)を設置し、停電時のデータ保護とシャットダウン時間を確保する。一般にバッテリー保持時間は10〜15分以上
  • 非常用発電機からの給電回路を計画し、長時間停電にも対応できる構成とする
  • 電源は2系統(A系統+B系統)の冗長給電とし、ラックごとに2系統のPDU(電源分配ユニット)を設置する

防災・セキュリティ

  • 消火設備はガス系消火設備(窒素・FM-200等)を採用し、水損による機器損壊を防止する
  • 入退室管理システム(ICカード+暗証番号等の二要素認証)を設置する
  • 漏水検知センサーをフリーアクセスフロア下に設置し、空調ドレンや配管からの漏水を早期に検知する

よくある見落としポイント

弱電・情報通信設備の設計で特に見落としやすいポイントを以下にまとめます。

  • EPS内の弱電用スペース不足:強電設備のスペースだけを確保し、弱電用ラックの設置スペースが不足するケース。基本計画段階で弱電用スペースを意匠設計者と合意しておく
  • 水平配線距離90m超過:大規模フロアでIDFが1箇所しかなく、末端の情報コンセントまでの距離が90mを超えてしまう。IDFの分散配置で対応する
  • PoE給電の電源容量不足:IPカメラ・無線AP・IP電話のPoE給電量の合計がスイッチのPoEバジェットを超過する。機器リストからPoE消費電力を積算し、スイッチの給電能力と照合する
  • 通信事業者の引き込みルート未確認:通信事業者(NTT・KDDI等)の光ファイバー引き込みルートを設計段階で確認していない。MDFまでのルートと管路を事前に確保する
  • 無線APの予備配線漏れ:将来の端末増加やレイアウト変更に備えた予備のAP用配線を計画していない。竣工後に追加配線する場合、天井裏の作業は高コストになるため、20〜30%の予備配線を推奨

設計チェックリスト

弱電・情報通信設備の設計で確認すべき主要項目を整理します。

LAN配線

  • 配線規格(Cat6A推奨)を選定し、将来の帯域要件を満たしているか
  • 全ての水平配線が90m以内(パッチコード含め100m以内)に収まっているか
  • 情報コンセントの口数と配置は用途に適しているか
  • 強電ケーブルとの離隔距離は確保されているか

MDF・IDF

  • MDF・IDFのスペース(ラック数・作業スペース)は十分か
  • 通信事業者の引き込みルート・管路を確認したか
  • IDFの換気・空調と専用電源回路は計画されているか

無線LAN・サーバー室

  • 無線APの配置密度と予備配線は適切か
  • PoE給電の電源容量はスイッチのPoEバジェット以内か
  • サーバー室の空調能力・UPS・冗長電源は計画されているか
  • サーバー室の消火設備はガス系を採用しているか

まとめ

弱電・情報通信設備の設計は、LAN配線計画を中核として、MDF・IDFの配置、無線アクセスポイントの計画、サーバー室の環境設計を体系的に行う必要があります。近年はIP化の進展により、電話・セキュリティ・放送設備もネットワーク上に統合される傾向にあるため、LAN配線の重要性はますます高まっています。

設計の初期段階からMDF・IDFのスペース確保と通信事業者との引き込み協議を進め、将来の拡張性を見据えた予備配線・予備ラックスペースを計画することが、長期的に価値のある情報通信インフラ構築の鍵です。本記事のチェックリストを活用し、漏れのない弱電設備設計を行ってください。

監修者

猪狩理

設備設計士

パラダイム部長

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